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広島市産業振興センターNEWS 第149号(2014.9.16)


広島市産業振興センターNEWS

技術情報の提供 (技術振興部 材料・加工技術室)

   「チタンの色」

1 チタンと光の干渉
 チタンは鉄やステンレスよりも軽くて、錆びない材料です。従来から、その耐食性と比強度(質量当たりの強度のことを言います。)に優れた性質から、航空宇宙分野、医療分野、化学工業分野、原子力分野などの様々な分野で利用されています。最近では、メガネ、カメラ、レジャー用品、スポーツ用品、インテリア用品など身近なところにも利用され、耳にする機会も増えたのではないでしょうか。また、面白いところでは、錆びない性質(厳密には非常に錆びにくい)により、建材、モニュメントといったものに使われ始めています。
 このチタン製建材やモニュメントを何処かで目にした方もいると思いますが、話をすると意外にその色の記憶が違っている場合があります。ある人は、多くの金属が示す色の「銀色」です。この場合、鉄と同じ色なので先入観があるのでしょう。予想以上に軽かったことが記憶に残っています。また、別の人達は、すごく綺麗な色をしており、「青」、「紫」、いやいや「金色」だったなどと一致しません。色が違って見えるのであれば、一般的な金属の着色手段であるめっきや塗装が施されていると考えられます。しかし、チタンで見られる「金色」などの色は、めっきや塗装による着色の色彩や光沢とは明らかに異なるため、チタン素材(材料そのもの)の色に見えます。
 おかしなことを言うと思われるかもしれませんが、「では、チタンの本当の色は何色でしょう?」、やはり多くの金属と一緒で「銀色」です。しかし、私はまだ生まれていなかったので生を知りませんが昭和の二、三十年ごろに流行ったと聞いている江戸川乱歩の創り出した怪盗の怪人二十面相(昭和30年代に映画化)よりも多くの顔をもち、チョット変装させるとチタンは100以上の顔(色)をもちます。
 どんな変装かと言うと、「光の干渉」という変装です。馴染みのあるところでは、シャボン玉の虹色、雨で濡れた路面上にあるガソリンの油膜の虹色やCD表面の虹色などがよく知られています。
 小学校の理科の実験を思い出してください。太陽光をプリズムにより分光し、いろいろな色(虹色)の光を観察したことがあると思います。光は波長により特有の色を持ち、可視光は、様々な波長の光が混ざり合っています。また、光の波長は、光の色彩によって異なります。赤色の光の波長より青色の光の波長が短く、さらに紫色の光の波長が短くなります。表1に色と波長の関係を示します。

 表1 色の波長

波長(nm)

650~700

588~650

550~588

492~550

455~492

380~455

 「光の干渉」は物理現象の一つです。複数の光(波長)の重ね合わせによって新しい波ができることを言います。波なので上下(山谷)を繰り返します。同じ波長を持つ波が重なり合う場合、その山と山、谷と谷が一致するとき、光の波(振幅)は強め合い、また、2つの波の山と谷が一致するとき(位相差が180°)、波は弱め合います。この様に、波が重なり合って、強め合ったり、弱め合ったりする現象を干渉と言います。
 めっきや塗装を表面に別の材料を付けると言う意味で「化粧」に例えるなら、チタンの場合は「日焼け」のイメージでしょうか。「化粧」もしていないのに、何故チタンは多くの色に見えるのか、「光の干渉」により説明します。
 チタンの表面に10nm~300nm程度の膜厚の酸化皮膜(酸化チタン)を形成させます。この酸化皮膜は無色透明なので、様々な波長を含む光が表面で反射する際、酸化皮膜の表面で反射する光のほかに、屈折して酸化皮膜の中に入りチタンの表面で反射する光があります。つまり、反射光は酸化皮膜の表面の反射光とチタンの表面の反射光が混ざり合ったものとなります。この時、この2種類の反射光(波長)が干渉作用により強調され、特定の色として見えるのです。干渉を起こす波長は、光の進む距離によるため、酸化皮膜の膜厚と光の角度で決まります。太陽光などの光には、様々な波長の光が混ざり合っているため、強められる波長(干渉)を酸化皮膜の厚さで制御すれば希望する色が得られます。
 このことを図1でみてみます。前述のように、酸化皮膜によって、光(入射光①、②)の反射は2つの経路を持ちます。1つは酸化皮膜の表面で反射される反射光(③、⑤)で、図に赤い矢印で示しています。もう1つは、屈折して酸化皮膜の中に侵入し、チタンの表面で反射される反射光(④、⑥)です。図では青い矢印の経路で示しています。入射光①は反射光③と反射光④に、入射光②は反射光⑤と反射光⑥になります。このうちチタン表面で反射された反射光④と酸化皮膜表面で反射された反射光⑤は、条件次第で干渉して重なり合います。この時の波長の色が目に見える色となり、可視光に含まれる色であれば発色することになります。この様にして100色以上の発色が見られるのです。

図1 チタンの発色原理

2 着色方法と膜厚
 チタンの着色(発色)には、陽極酸化法と大気酸化法が主に利用されています。
 陽極酸化法は、導電性の水溶液(酸)に浸したチタンを陽極として、電気的に酸化皮膜を形成させる方法です。大気酸化法は、チタンを電気炉などを用いて約300~800℃で高温酸化させます。陽極酸化法での膜厚のコントロールは、電圧制御で行うため比較的容易にでき、様々な色の発色が可能であり、大面積でも非常に均一にできます。しかし、陽極酸化法では非晶質の酸化チタンが形成されるため皮膜の密着性は大気酸化法によるよりは劣ります。大気酸化法では、陽極酸化法による発色のように多くの色は得られませんが、陽極酸化法では出せない白色を発色させることができます。さらに、その他の方法に、電気を使わずに硫酸溶液中で処理する化学酸化法があり、黒色を発色することができます。何れの方法によっても、金属チタンの酸化皮膜は緻密で非常に薄いことから、耐候性や密着性は良好です。
 発色は、酸化皮膜の膜厚が10nm程度から起こります。陽極酸化法では、条件により多少異なりますが、電圧の変化に比例して酸化皮膜の厚さが増加し、概ね表2の色になります。また、大気酸化法では、温度と時間を変えることで膜厚が変化し、膜厚が厚くなるのに従い、金色、褐色、紫色、青色、空色、赤紫色、黄緑色、灰色、白色と変化します。大気酸化法によるチタンの発色を図2に示します。

 表2 陽極酸化法による膜厚と色の関係

膜厚(nm)

10

15

30

40-70

80

100-110

120-130

140-150

170-190

茶・紫

黄緑

赤紫・紫

緑・黄緑

図2 大気酸化によるチタンの発色

3 発色させたチタンの実用例
 発色させたチタンは、めっきや塗装では得られない色彩感を活かした装飾目的のほかに、酸性雨による腐食対策、さらに地震対策として、実際に屋根材として使用されています。九州国立博物館の屋根は鮮やかなブルー、北野天満宮宝物殿の屋根は銅屋根の緑青そっくりの色、浅草寺本堂の屋根は土瓦に近い風合いの微妙に色の異なるグレーなどがあります。

九州国立博物館(公益財団法人福岡観光コンベンションビューローホームページより引用)

九州国立博物館(公益財団法人福岡観光コンベンションビューローホームページより引用)

北野天満宮・宝物殿(MAPPLE 観光ガイドより引用(左),日本全国建物音頭より引用(右))

北野天満宮・宝物殿(MAPPLE 観光ガイドより引用(左),日本全国建物音頭より引用(右))

浅草寺本堂(wikipediaより引用)

浅草寺本堂(wikipediaより引用)

■問い合わせ先
  技術振興部 材料・加工技術室 (広島市工業技術センター内) 
  TEL 082-242-4170(代表)

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