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広島市産業振興センターNEWS 第168号(2015.7.15)

広島市産業振興センターNEWS

技術情報の提供 (材料・加工技術室)

 「真鍮の脱亜鉛腐食」


浴室、洗面所などに見られる銀色の配管は、外部にクロムメッキを施した黄銅製のものが多く使われています。黄銅は銅と亜鉛の合金で一般的に真鍮と呼ばれており、こちらの呼び名が馴染み深い方も多いのではないでしょうか。銅に混ぜる亜鉛の含有量が増えることで、赤味を帯びた銅色から黄味が強くなっていき黄金色へと変化します。このため黄銅と呼ばれています。日ごろ目にする機会の多い黄銅として5円硬貨がありますが、これは亜鉛を30~40%含んだ銅合金です。一方、10円硬貨は亜鉛を3~4%、スズを1~2%含んだ銅合金(青銅と呼ばれています。)で、銅の含有量が多いため赤味があります。

また、亜鉛を含んだ銅合金の分類方法はいくつかありますが、工業的には亜鉛が10~45%の範囲の銅合金を真鍮と呼びます。また、亜鉛の含有量によりその物性等に違いが見られ、日本工業規格(JIS)では、約4~22%の亜鉛を含む銅合金を丹銅と呼び、約30~40%の亜鉛を含む銅合金を黄銅と呼び、その他に快削黄銅、スズ入り黄銅、ネーバル黄銅などの種類を規定しています。中でも、70-30黄銅(70%の銅と30%の亜鉛の合金)、65-35黄銅、60-40黄銅が広く利用されています。先ほど触れた色味に関しても、亜鉛の含有量が5%程度までは赤味を帯びた色(赤銅色)から、20%程度までは黄味を帯びた赤色、35~40%で黄金色へと、亜鉛の含有量が多くなるとともに色味が薄くなって行きます。

ところで、加工のしやすさなどの特徴から広く利用されている真鍮ですが、配管等に用いられる金属材料は、真鍮に限ったことではありませんが、腐食や破損を生じる可能性があります。皆様もこれまでにこのようなトラブルに見舞われたことがあるかと思います。軽微の腐食程度であれば外観上の問題なので、特に気にしなければ短期での問題はないと思われますが、折れたり、亀裂が入ったりして水漏れが生じると、そうは言ってもおられません。特に汚水配管でもないのに短期間の使用にも係わらず突然折れる事例があります。その原因の一つに「脱亜鉛腐食」と言われる現象があります。
この「脱亜鉛腐食」とは、亜鉛を含む合金材料中の亜鉛成分が他の成分より優先的に溶解したように見える局部腐食の一つです。代表的なものに真鍮中の亜鉛の溶解があります。真鍮中の亜鉛成分が溶解し、スポンジ状の銅成分が合金材料中に残ります。これは亜鉛含有量が30%以上の真鍮で発生し、10~15%以下の真鍮(赤色真鍮)では起こらないと言われています。
また、「脱亜鉛腐食」の進行は、水溶液の温度、溶存酸素の濃度、塩化物イオンの濃度、pH、硬度などの影響を強く受けます。さらに、水の停滞しやすい弁やコーナー部(流速が遅い)に多く見られ、遊離炭酸や炭酸ガスの多い水で発生しやすいと言われています。

この腐食の発生メカニズムはいくつか考えられていますが、明らかには成っていません。合金元素の亜鉛が優先的に溶出したように見え、結果的にスポンジ状の銅が残る脱成分腐食であり、(1)合金が腐食した後、銅が再析出して外層を形成する。(2)合金表面へ亜鉛が拡散して選択的に腐食し、銅に富んだ合金の残渣が生成する。(3)(1)と(2)が同時に起こるなどが考えられています。

それでは、実際の事例を用いて説明したいと思います。
写真1に示す給水管は屋内での使用にもかかわらず短期間の間に折れたものです。その破断部分(写真1中の赤枠)の管の断面を写真2に示し、さらに、写真2中の赤枠で示した領域を写真3に示します。

写真2と写真3に見られるように、破断部近傍の給水管の内面側は赤銅色に変色しており、特に破断部分のネジ部(谷部)にはこの赤銅色の領域が外面まで続いています。表1に示す給水管の黄金色領域と赤銅色領域の半定量分析結果から、この赤銅色領域の亜鉛濃度は、合金母材部分(黄金色領域)の亜鉛濃度と比べて非常に少ないことが分かり、脱亜鉛腐食を生じているものと考えられます。また、写真4に写真3に見られる脱亜鉛腐食を生じた領域のSEM(電子顕微鏡)像を示し、写真4の赤銅色部(写真3で赤銅色を示す写真下側)の拡大を写真5に示します。これらの写真より、選択的に亜鉛の抜けた部位が空洞になっている様子が観察され、黄金色部(母材)と赤銅色部の間に亀裂が認められます。このように母材の一部がスポンジ状に変化したため強度が低下し、外部応力により簡単に破損したことが予想されます。

また、銅は、淡水中では赤褐色の酸化銅(Ⅰ)(Cu2O)皮膜を表面に形成し、酸化性が強いと黒色の酸化銅(Ⅱ)(CuO)皮膜が形成されます。写真2より、給水管内部が黒色に変化している様子が観察されます。酸化銅(Ⅰ)皮膜は酸化還元反応に対する障壁となって腐食を抑制しますが、給水管内部に形成された酸化銅(Ⅱ)には耐食性能はありません。

この種の腐食を生じる環境条件は、前にも述べたように水質に大きく依存しており、塩化物濃度が高い、低流速、低pH、遊離炭酸を含む微酸性などが挙げられ、地下水系の水で生じやすいと考えられます。

破損した給水管 破損した管の破断位置近傍
写真1 破損した給水管 写真2 破損した管の破断位置近傍
写真2の赤枠部分の拡大
写真3 写真2の赤枠部分の拡大
破断部近傍のネジ部のSEM像 写真4の赤銅色部の拡大
写真4 破断部近傍のネジ部のSEM像 写真5 写真4の赤銅色部の拡大




表1 蛍光X線による破断給水管の半定量分析結果(mass%)

元素 Cu(銅) Zn(亜鉛)
黄金色領域 64.0 36.0
赤銅色領域 99.0 1.0

■問い合わせ先
 技術振興部 材料・加工技術室 (広島市工業技術センター内)
 TEL 082-242-4170(代表)  E-mail:kougi@itc.city.hiroshima.jp

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 「真鍮の脱亜鉛腐食」


浴室、洗面所などに見られる銀色の配管は、外部にクロムメッキを施した黄銅製のものが多く使われています。黄銅は銅と亜鉛の合金で一般的に真鍮と呼ばれており、こちらの呼び名が馴染み深い方も多いのではないでしょうか。銅に混ぜる亜鉛の含有量が増えることで、赤味を帯びた銅色から黄味が強くなっていき黄金色へと変化します。このため黄銅と呼ばれています。日ごろ目にする機会の多い黄銅として5円硬貨がありますが、これは亜鉛を30~40%含んだ銅合金です。一方、10円硬貨は亜鉛を3~4%、スズを1~2%含んだ銅合金(青銅と呼ばれています。)で、銅の含有量が多いため赤味があります。

また、亜鉛を含んだ銅合金の分類方法はいくつかありますが、工業的には亜鉛が10~45%の範囲の銅合金を真鍮と呼びます。また、亜鉛の含有量によりその物性等に違いが見られ、日本工業規格(JIS)では、約4~22%の亜鉛を含む銅合金を丹銅と呼び、約30~40%の亜鉛を含む銅合金を黄銅と呼び、その他に快削黄銅、スズ入り黄銅、ネーバル黄銅などの種類を規定しています。中でも、70-30黄銅(70%の銅と30%の亜鉛の合金)、65-35黄銅、60-40黄銅が広く利用されています。先ほど触れた色味に関しても、亜鉛の含有量が5%程度までは赤味を帯びた色(赤銅色)から、20%程度までは黄味を帯びた赤色、35~40%で黄金色へと、亜鉛の含有量が多くなるとともに色味が薄くなって行きます。

ところで、加工のしやすさなどの特徴から広く利用されている真鍮ですが、配管等に用いられる金属材料は、真鍮に限ったことではありませんが、腐食や破損を生じる可能性があります。皆様もこれまでにこのようなトラブルに見舞われたことがあるかと思います。軽微の腐食程度であれば外観上の問題なので、特に気にしなければ短期での問題はないと思われますが、折れたり、亀裂が入ったりして水漏れが生じると、そうは言ってもおられません。特に汚水配管でもないのに短期間の使用にも係わらず突然折れる事例があります。その原因の一つに「脱亜鉛腐食」と言われる現象があります。
この「脱亜鉛腐食」とは、亜鉛を含む合金材料中の亜鉛成分が他の成分より優先的に溶解したように見える局部腐食の一つです。代表的なものに真鍮中の亜鉛の溶解があります。真鍮中の亜鉛成分が溶解し、スポンジ状の銅成分が合金材料中に残ります。これは亜鉛含有量が30%以上の真鍮で発生し、10~15%以下の真鍮(赤色真鍮)では起こらないと言われています。
また、「脱亜鉛腐食」の進行は、水溶液の温度、溶存酸素の濃度、塩化物イオンの濃度、pH、硬度などの影響を強く受けます。さらに、水の停滞しやすい弁やコーナー部(流速が遅い)に多く見られ、遊離炭酸や炭酸ガスの多い水で発生しやすいと言われています。

この腐食の発生メカニズムはいくつか考えられていますが、明らかには成っていません。合金元素の亜鉛が優先的に溶出したように見え、結果的にスポンジ状の銅が残る脱成分腐食であり、(1)合金が腐食した後、銅が再析出して外層を形成する。(2)合金表面へ亜鉛が拡散して選択的に腐食し、銅に富んだ合金の残渣が生成する。(3)(1)と(2)が同時に起こるなどが考えられています。

それでは、実際の事例を用いて説明したいと思います。
写真1に示す給水管は屋内での使用にもかかわらず短期間の間に折れたものです。その破断部分(写真1中の赤枠)の管の断面を写真2に示し、さらに、写真2中の赤枠で示した領域を写真3に示します。

写真2と写真3に見られるように、破断部近傍の給水管の内面側は赤銅色に変色しており、特に破断部分のネジ部(谷部)にはこの赤銅色の領域が外面まで続いています。表1に示す給水管の黄金色領域と赤銅色領域の半定量分析結果から、この赤銅色領域の亜鉛濃度は、合金母材部分(黄金色領域)の亜鉛濃度と比べて非常に少ないことが分かり、脱亜鉛腐食を生じているものと考えられます。また、写真4に写真3に見られる脱亜鉛腐食を生じた領域のSEM(電子顕微鏡)像を示し、写真4の赤銅色部(写真3で赤銅色を示す写真下側)の拡大を写真5に示します。これらの写真より、選択的に亜鉛の抜けた部位が空洞になっている様子が観察され、黄金色部(母材)と赤銅色部の間に亀裂が認められます。このように母材の一部がスポンジ状に変化したため強度が低下し、外部応力により簡単に破損したことが予想されます。

また、銅は、淡水中では赤褐色の酸化銅(Ⅰ)(Cu2O)皮膜を表面に形成し、酸化性が強いと黒色の酸化銅(Ⅱ)(CuO)皮膜が形成されます。写真2より、給水管内部が黒色に変化している様子が観察されます。酸化銅(Ⅰ)皮膜は酸化還元反応に対する障壁となって腐食を抑制しますが、給水管内部に形成された酸化銅(Ⅱ)には耐食性能はありません。

この種の腐食を生じる環境条件は、前にも述べたように水質に大きく依存しており、塩化物濃度が高い、低流速、低pH、遊離炭酸を含む微酸性などが挙げられ、地下水系の水で生じやすいと考えられます。

破損した給水管 破損した管の破断位置近傍
写真1 破損した給水管 写真2 破損した管の破断位置近傍
写真2の赤枠部分の拡大
写真3 写真2の赤枠部分の拡大
破断部近傍のネジ部のSEM像 写真4の赤銅色部の拡大
写真4 破断部近傍のネジ部のSEM像 写真5 写真4の赤銅色部の拡大




表1 蛍光X線による破断給水管の半定量分析結果(mass%)

元素 Cu(銅) Zn(亜鉛)
黄金色領域 64.0 36.0
赤銅色領域 99.0 1.0

■問い合わせ先
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