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技術支援アラカルト

広島市産業振興センターNEWS 第170号(2015.8.17)

広島市産業振興センターNEWS
技術支援アラカルト

デザインマネジメント人材育成事業(広島県緊急雇用対策基金事業)開催レポート(第5回)
~デザインを経営資源として戦略的に活用するための人材育成プログラム~


 技術振興部では、中小企業のデザイン開発力の向上を積極的に支援しています。その一環として、去る2月26日に開講しました「デザインマネジメント人材育成事業」について、本事業の企業支援担当コーディネータを務めていただいている中国地方総合研究センターの江種様よりその様子を連載でレポートしていただきます。
 今回は、座学としては最後となる5日目の講座についてのレポートをお届けします。

◆サービスデザイン概論

 研修5日目の1コマ目の講義は、多摩美術大学情報デザイン学科准教授の吉橋昭夫先生による「サービスデザイン概論」です。吉橋先生は、NECでデザイン業務に従事されたのちに、多摩美術大学の大学院でデザイン、多摩大学の大学院で経営情報学を更に学ばれ、現在は大学で教鞭を執りながら今回のテーマであるサービスデザインという新しいデザイン分野を研究されています。


 サービスデザインとは、「顧客に豊かな経験を提供することを目指して、人々の活動やプロダクト、情報、空間、プロセスなどを総合的に扱う新しいデザイン分野」と定義されているようです。とはいえ、「サービス」の定義は様々で、無形性(作り置きや在庫ができない)、異質性(顧客との相互作用から生まれ、品質管理も難しい)、不可分性(生産と消費が同時)、消滅性(貯めることができない)といった特徴をほぼ共通点として持ちつつも、IT技術や技術革新でこれらの特徴も少しずつ消えています。電子データをIT企業が持つ遠隔地サーバーに保存してもらうサービスは、ユーザーの都合の良い時に取り出して加工できますので、不可分性や消滅性が部分的に解消している良い例ですね。そのように、時代とともに進化して、なおかつ形に見えない「サービス」を形づくる行為を「サービスデザイン」と呼ぶわけですから、やはり難解なイメージを持ってしまいます。


 私もこの分野にはほとんど知見がありませんでしたので、SDL(Service Design Lab)を主宰している大日本印刷のウェブサイト(http://www.dnp.co.jp/cio/servicedesignlab/)をのぞいてみました。そこに強調されていたのは、「生活者中心の価値分析から革新的なサービスを開発」「サービス利用者(生活者)が感じる情緒的な体験価値を重視」「生活者の本質的欲求の発掘と多様な発想法の組み合わせによるアイデア創出方法の検討」という考え方で、モノやサービスの作り手側からの発想ではなく、ユーザー(消費者)に基準を設定して、しかもその感情を重視することでニーズを抽出し、その経験価値をデザインするという発想でした。
 こうした考え方は、これまでの「デザインマネジメント人材育成事業」のすべての講義に共通する考え方であり、研修を通じて徹底的に学んでいる受講者にとってはスムーズに理解できたのではないかと思います。


 吉橋先生は、CJM(Customer Journey Map)のようなツールを用いて、顧客目線から見たサービスへの経験価値を明確にしながら、サービスデザインを実践されています。その一つの事例として、「日本橋 つながーる旅」を紹介されました。これは、日本橋の過去から現在を人と出会いながらめぐるガイド付きの旅行で、江戸~明治・大正~戦前・戦後~現在へと、時系列に沿って、その時代にちなむ人物や建物、飲食店を巡ります。独創的なアイデアだと思ったのは、それぞれの場所で記念撮影をするのですが、例えば明治期の建物を背景とするときにはモノクロ、高度成長期を象徴する場所で撮影した時にはセピア色、最先端の観光スポットではフルカラーと、時代に合わせて色調を変えて出力するサービスです。これなら、写真を見る人にもその時代の光景が思い浮かぶような気がして、雰囲気のある旅行写真ができあがります。

 このようなサービスデザインに関する具体的なプロジェクトは、学生にとっても貴重な実践経験の場になると思いますし、参加企業にとっても、産学連携やインターンシップを通じて、サービスデザインを若い人材と一緒に考えることができるため、有効な手段だと感じました。ぜひ、中小企業が事業デザインを高度化するツールにして頂きたいと思います。

サービスデザイン概論の講義風景
サービスデザイン概論の講義風景

◆ プロモーション戦略
 研修5日目の2コマ目は、イントリックス株式会社代表取締役の気賀崇先生による「プロモーション戦略」です。気賀先生は、eビジネスやウェブ再構築などの業務で経験を重ねられたのちに、イントリックス(株)を設立して代表取締役社長に就任し、主にBtoB企業を顧客としてウェブを活用したプロモーションの戦略策定や助言を行われています。同時に、BtoB企業にとってのウェブ活用や、グローバルウェブ設計に関する講演や著書も多く、受講者にとっては理論と実践の両面からネットプロモーションを考える良い機会になったと思います。

 気賀先生は、冒頭で「ネットプロモーションは中小企業にとって有効なツールになり得ます」と強調されました。インターネットを通じて、「いつでも、どこからでも、深い情報」を簡単に取ることができるようになりました。会社案内や製品案内のパンフレットは、顧客に配ることを目的に作られますので、なるべく薄くて軽いものが理想的ですが、インターネットではパンフレットで1万ページにも匹敵する内容を掲載することも可能です。また、消費者が多くの時間をネット上で過ごすようになっているため、企業の広告費もインターネットにシフトしています。こうした状況は、多額の広告費をかけることができない中小企業にとっては確かに追い風で、有効に使いこなすことができれば中小企業にとっても大きな武器になります。

 気賀先生によれば、中小企業にとってのネットプロモーションの意義を整理すると、「自社メディア」「低コスト」「顧客接点の拡大」になるということです。特に三つ目の「顧客接点の拡大」は、商品の新しい市場を創り出していくにあたっても有効で、メーカーとユーザーの意外な組み合わせをもたらす可能性があります。
SWITL(スイットル)(資料)古川機工(株) 例えば、テレビでも話題になった古川機工(株)の「SWITL(スイットル)」は、ケチャップやマヨネーズなどのワークの形を変えずにすくい上げて、他の位置にそのままの形で移動させることができる優れた装置です。技術レベルの高さは疑いようもありませんが、当初はこれをどのように使えばよいのか、開発担当者ですらピンとこなかったそうです。誠に失礼ですが、英語の「contraption(=奇妙な装置、何の役に立つのか分からない機器)」という単語がピッタリ当てはまる装置でした。
 ところがこれをネットに載せたところ、その用途について次々とユーザー側から提案が上がり、和菓子やパン、ハンバーグなどの食品生産ラインのほか、化学薬品や液体材料などを扱う工程でカスタマイズされながら採用されているとのこと。メーカーとユーザーの意外な組み合わせがネットを通じて起こった好例で、メーカーの独自営業だけに頼らない柔軟な姿勢が成功に導いたと言えます。

 また、気賀先生は「ウェブでの検索結果で自社が上位に挙げられるためには、コンテンツをひたすら厚くすること」と指摘されました。Googleなどの検索エンジンでは、小手先の技術を盛り込んだサイトではなく、内容のある良いサイトが上位になるように日々改善されているそうです。コンテンツを厚くする例として、経営者や担当者が自社技術について約10年間ブログを毎日掲載した企業や、特定の製品に関するQ&Aのやりとりをすべて掲載した企業の事例を挙げられていました。また、アクセス解析も有効に使いこなして、自社への興味が強いのか弱いのかを見極め、実際のビジネスにつながる可能性の高い潜在顧客に集中的にアプローチするべき、といった内容も紹介されました。

 私個人にとっても、改めて気付かされる点が多く、充実した講義でした。受講者にも、この講義で学んだことを、自社サイトを通じて具体化して、効果的なプロモーションを進めて頂きたいと思います。 

プロモーション戦略の講義風景
プロモーション戦略の講義風景


「デザインマネジメント人材育成事業」コーディネーター 江種浩文

■問い合わせ先
 技術振興部(広島市工業技術センター内)

 TEL 082-242-4170(代表)  E-mail:kougi@itc.city.hiroshima.jp

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