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技術情報の提供(材料技術室)

「イオンミリング装置でできること」


 

 「起こっている現象を調べるのには、見る(観察する)のが、一番間違いがない。」大学生のころ、卒業研究をしていた私に、先生が言った言葉です。確かに仰る通りです。しかし、何でもかんでも、簡単に見ることができるのなら苦労はしません。

 技術の進歩、例えば、顕微鏡や電子顕微鏡などの発展と共に、10倍、20倍程度の拡大鏡で観察していた世界から、千倍、一万倍、そして、いまでは数十万倍まで拡大して、これまでは見ることのできなかった小さなものを見ることができるようになり、いろいろなことが分かるようになってきました。今回、ご紹介するイオンミリング装置は、技術の進歩によって、これまでは見ることのできなかったものを、見ることができるようにするための試験片を作製する装置です。
 自動車のドアを見てください。赤や青、黄色、白などのつやつやとした塗装がされています。自動車のドアのほとんどが鉄製ですが、金属(鉄)の地肌が出たままでは、見た目も良くなく、直ぐに錆びてしまうので、表面を塗装しているのです。では、このドアは、どのような塗装が、どのくらいの厚さで施工されているのかを調べようと思ったら、どうしたら良いでしょうか。このとき、一つの方法として、塗装面に垂直な方向に切断して、その切断面を直接観察するという方法が思い浮かびます。これで、図1に示すような塗装の断面図を直接観察することができ、どのような塗装、処理がなされているかを知ることができます。

図1 塗装断面の模式図
  図1 塗装断面の模式図



 断面を観察するための試験片の作成方法は、切断して、研磨、琢磨を行う方法が一般的です。研磨、琢磨は、顕微鏡などで観察がしやすいように、切断した面を滑らかに仕上げるために行います。通常、サンドペーパーで削った後に、ダイヤモンドなどの砥粒を用いたバフ掛けをします。日曜大工などで、木の板を切ったりして、そのままだとささくれて、ガサガサですが、サンドペーパーで仕上げれば、つるつるとしたなめらかできれいな面になるのと同じ原理です。

 図2は、ろ紙をカッターナイフとハサミで切った断面を、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果です。

図2 カッターナイフとハサミで切断したろ紙の断面
図2 カッターナイフとハサミで切断したろ紙の断面



 紙は、木の繊維質を固めたものです。しかし、上の写真では、繊維質なのか、また、もとがどのような形になっていたのか、良く分かりません。これは、カッターナイフやハサミでの切断は、押しながら切るため、観察しようとする面(切断面)に余計な力をかけて、変形しているためです。上述の研磨、琢磨においても、削る際には、観察したい面に大なり小なりの余計な力をかけてしまう点では同様です。
 イオンミリングとは、イオンビームを使用して、削る加工です。ミリングとは、もともとは製粉することであり、このことを語源として削る加工をすることを意味します。図3に、広島市工業技術センターで所有するイオンミリング装置と、その加工部を示します。

図3 イオンミリング装置
図3 イオンミリング装置



 図3(b)のように、3本のイオンビームを試験片の表面に当てて、少しずつ削っていきます。この場合、削っていく表面に余計な力を加えることが無いため、観察したい部分を変形させることもありません。図4は、図2で観察したろ紙と同じものですが、イオンミリング装置で削った断面をSEMで観察した結果です。この図では、厚さ0.01mmほどの繊維質が、複雑に絡み合った状態になっていることが分かります。図2と比べてみれば、違いは一目瞭然です。

図4 イオンミリング装置で加工したろ紙の断面
図4 イオンミリング装置で加工したろ紙の断面


 亜鉛メッキした鋼板に塗装をする場合、塗装の密着性を向上させることを目的として、リン酸亜鉛皮膜処理という化成処理を行います。この処理を行うことで、亜鉛メッキの表面には、リンと亜鉛のゴツゴツした合金層ができ、これで塗装の密着性が向上します。
 例えば、塗装がはがれるようなことが起こった時、この原因調査を行うにあたって、リン酸亜鉛皮膜処理がきちんと施工されていないと疑い、この断面観察を行うことを考えたとします。図5は、リン酸亜鉛皮膜処理した亜鉛メッキ鋼板断面のSEM観察結果になります。ただし、図5(a)は、サンドペーパーとダイヤモンド砥粒で研磨、琢磨して仕上げた試験片、そして、図5(b)は、イオンミリング装置で仕上げた試験片を観察した結果です。

図5 リン酸亜鉛皮膜処理した亜鉛メッキ鋼板断面のSEM観察結果
図5 リン酸亜鉛皮膜処理した亜鉛メッキ鋼板断面のSEM観察結果


 図5(b)では、亜鉛メッキとリン酸亜鉛処理皮膜のどちらにも特に問題は見られません。しかし、図5(a)では、亜鉛メッキの層がボロボロになっており、この観察結果をもとにすると、亜鉛メッキ層ごと塗装が剥がれたのではないかと考えてしまうかもしれません。さらに付け加えれば、研磨傷もたくさん見えており、あまり見栄えがよくありません。ここで、亜鉛メッキの層がボロボロになったのは、研磨、琢磨の時であって、塗膜剥離の原因には何ら関係ないものです。これは、亜鉛メッキは、鋼板とリン酸亜鉛処理皮膜に比べて柔らかく、後者より先にどんどん掘れるようにして削れる現象が発生したためです。イオンビームで削る場合には、削るものの硬い、柔らかいによらず、スポンジからダイヤモンドまで同時に削ることができます。
 以上のように、イオンミリング装置を使用して断面観察用の試験片を作成することで、元の状態を極力維持した形で断面観察用試料を作成することができるようになり、これまでは不可能であったような様々の不良原因の調査などが可能になっています。
 今回、御紹介したイオンミリング装置も万能ではありません。広島市工業技術センターでは、様々な方法のメリットとデメリットを把握して、皆様の御要望に対応しています。今回紹介したような断面観察などをしてみたいと思われた際には、お気軽に御相談ください。


■問い合わせ先

  工業技術センター 材料技術室(広島市工業技術センター内)

  TEL 082-242-4170(代表)  E-mail kougi@itc.city.hiroshima.jp

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「イオンミリング装置でできること」


 

 「起こっている現象を調べるのには、見る(観察する)のが、一番間違いがない。」大学生のころ、卒業研究をしていた私に、先生が言った言葉です。確かに仰る通りです。しかし、何でもかんでも、簡単に見ることができるのなら苦労はしません。

 技術の進歩、例えば、顕微鏡や電子顕微鏡などの発展と共に、10倍、20倍程度の拡大鏡で観察していた世界から、千倍、一万倍、そして、いまでは数十万倍まで拡大して、これまでは見ることのできなかった小さなものを見ることができるようになり、いろいろなことが分かるようになってきました。今回、ご紹介するイオンミリング装置は、技術の進歩によって、これまでは見ることのできなかったものを、見ることができるようにするための試験片を作製する装置です。
 自動車のドアを見てください。赤や青、黄色、白などのつやつやとした塗装がされています。自動車のドアのほとんどが鉄製ですが、金属(鉄)の地肌が出たままでは、見た目も良くなく、直ぐに錆びてしまうので、表面を塗装しているのです。では、このドアは、どのような塗装が、どのくらいの厚さで施工されているのかを調べようと思ったら、どうしたら良いでしょうか。このとき、一つの方法として、塗装面に垂直な方向に切断して、その切断面を直接観察するという方法が思い浮かびます。これで、図1に示すような塗装の断面図を直接観察することができ、どのような塗装、処理がなされているかを知ることができます。

図1 塗装断面の模式図
  図1 塗装断面の模式図



 断面を観察するための試験片の作成方法は、切断して、研磨、琢磨を行う方法が一般的です。研磨、琢磨は、顕微鏡などで観察がしやすいように、切断した面を滑らかに仕上げるために行います。通常、サンドペーパーで削った後に、ダイヤモンドなどの砥粒を用いたバフ掛けをします。日曜大工などで、木の板を切ったりして、そのままだとささくれて、ガサガサですが、サンドペーパーで仕上げれば、つるつるとしたなめらかできれいな面になるのと同じ原理です。

 図2は、ろ紙をカッターナイフとハサミで切った断面を、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果です。

図2 カッターナイフとハサミで切断したろ紙の断面
図2 カッターナイフとハサミで切断したろ紙の断面



 紙は、木の繊維質を固めたものです。しかし、上の写真では、繊維質なのか、また、もとがどのような形になっていたのか、良く分かりません。これは、カッターナイフやハサミでの切断は、押しながら切るため、観察しようとする面(切断面)に余計な力をかけて、変形しているためです。上述の研磨、琢磨においても、削る際には、観察したい面に大なり小なりの余計な力をかけてしまう点では同様です。
 イオンミリングとは、イオンビームを使用して、削る加工です。ミリングとは、もともとは製粉することであり、このことを語源として削る加工をすることを意味します。図3に、広島市工業技術センターで所有するイオンミリング装置と、その加工部を示します。

図3 イオンミリング装置
図3 イオンミリング装置



 図3(b)のように、3本のイオンビームを試験片の表面に当てて、少しずつ削っていきます。この場合、削っていく表面に余計な力を加えることが無いため、観察したい部分を変形させることもありません。図4は、図2で観察したろ紙と同じものですが、イオンミリング装置で削った断面をSEMで観察した結果です。この図では、厚さ0.01mmほどの繊維質が、複雑に絡み合った状態になっていることが分かります。図2と比べてみれば、違いは一目瞭然です。

図4 イオンミリング装置で加工したろ紙の断面
図4 イオンミリング装置で加工したろ紙の断面


 亜鉛メッキした鋼板に塗装をする場合、塗装の密着性を向上させることを目的として、リン酸亜鉛皮膜処理という化成処理を行います。この処理を行うことで、亜鉛メッキの表面には、リンと亜鉛のゴツゴツした合金層ができ、これで塗装の密着性が向上します。
 例えば、塗装がはがれるようなことが起こった時、この原因調査を行うにあたって、リン酸亜鉛皮膜処理がきちんと施工されていないと疑い、この断面観察を行うことを考えたとします。図5は、リン酸亜鉛皮膜処理した亜鉛メッキ鋼板断面のSEM観察結果になります。ただし、図5(a)は、サンドペーパーとダイヤモンド砥粒で研磨、琢磨して仕上げた試験片、そして、図5(b)は、イオンミリング装置で仕上げた試験片を観察した結果です。

図5 リン酸亜鉛皮膜処理した亜鉛メッキ鋼板断面のSEM観察結果
図5 リン酸亜鉛皮膜処理した亜鉛メッキ鋼板断面のSEM観察結果


 図5(b)では、亜鉛メッキとリン酸亜鉛処理皮膜のどちらにも特に問題は見られません。しかし、図5(a)では、亜鉛メッキの層がボロボロになっており、この観察結果をもとにすると、亜鉛メッキ層ごと塗装が剥がれたのではないかと考えてしまうかもしれません。さらに付け加えれば、研磨傷もたくさん見えており、あまり見栄えがよくありません。ここで、亜鉛メッキの層がボロボロになったのは、研磨、琢磨の時であって、塗膜剥離の原因には何ら関係ないものです。これは、亜鉛メッキは、鋼板とリン酸亜鉛処理皮膜に比べて柔らかく、後者より先にどんどん掘れるようにして削れる現象が発生したためです。イオンビームで削る場合には、削るものの硬い、柔らかいによらず、スポンジからダイヤモンドまで同時に削ることができます。
 以上のように、イオンミリング装置を使用して断面観察用の試験片を作成することで、元の状態を極力維持した形で断面観察用試料を作成することができるようになり、これまでは不可能であったような様々の不良原因の調査などが可能になっています。
 今回、御紹介したイオンミリング装置も万能ではありません。広島市工業技術センターでは、様々な方法のメリットとデメリットを把握して、皆様の御要望に対応しています。今回紹介したような断面観察などをしてみたいと思われた際には、お気軽に御相談ください。


■問い合わせ先

  工業技術センター 材料技術室(広島市工業技術センター内)

  TEL 082-242-4170(代表)  E-mail kougi@itc.city.hiroshima.jp

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