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AIが品質を高める
合同会社SORAサクライ 代表櫻井 敏明(さくらい としあき) |
今回は、工業用セラミックスの製造会社で、AIを使って品質を高めた事例についてお話します。
同社は社員数40名程ですが、大手企業から量産(同製品を数年かけた大量生産)の依頼を受けるほどの技術力を有した少数精鋭のプロ集団です。
しかし、量産の受注時には、目視検査を行っている検査工程がボトルネックになっていました。
セラミックスにとって致命的な不具合はクラックです。セラミックスのクラックは、高性能カメラにも映らないほど微小な亀裂やひび割れで、クラックを見つけるには、熟練の検査担当者達の目による慎重な判定が必要となり、目視検査にかかる時間は1個につき1分かかります。
検査担当者と同じ判定ができる様になるには、経験と年月を要することから、単純に人員を増やすわけにはいきません。
試作段階では、月に数千個、量産時には月に数万個となってしまうことから、検査担当者達には、大きな負担がかかってしまうのです。
そのため、社長は「会社の信用を左右する重要な検査工程を、AIで補完し、目を酷使する検査担当者達の負担を軽減したい。」と願っていたのです。
検査担当者から「クラックのある不良品は、机に落としたときの音が良品と違う。」とお聞きしましたので、部品を落としたときの音を録音し、周波数を比較すると若干の違いが確認できました。しかし、セラミックスの場合、ロットが変わると、原料、工程、焼成の条件が変り、音も変化してしまい、簡単な外れ値検査ではうまくいきません。
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クラックのある部品を落とすと音が違う |
音のデータを集めて周波数をひたすら調査 |
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7ヶ月かけて打音検査設備も開発導入 |
一方、良品の周波数を見ると、ロットが違っても共通する波形の特徴が見受けられました。それなら波形を学習するAI(深層学習)を開発できないか。県の予算や大学の支援を受けてAIと打音検査設備の開発プロジェクトが始まりました。様々な課題に直面しながら運用に至るまでの2年間は、非常に貴重な経験でした。
何より有難かったのは、ロットごとのデータ上の特徴を同社に報告するたび、同社はロット間の音の差をなくすように努めてくれたこと、それがAIの精度向上と製品の品質向上、両方につながっていったのです。
AIと製品の品質、これらはどう関係するのでしょう?
AIは1つ1つの検査結果を数値で表します。理想的な良品、ギリギリの良品、全て数値に置き換わります。ロットの全数を検査すれば、全体の数値がどこに集まるか、ヒストグラムや散布図でロットの傾向を見ることができるのです。
ロット全体にバラツキが大きいと、AI判定も苦労しますが、それ以上に目を酷使する検査担当者の負担が増してしまいます。そこで検査担当者にグラフを見せて意見をお聞きすると、普段から感じていた違和感等、思い当たる小さな気付きをいくつも教えてくれました。それらは重要なヒントです。
情報を整理してマネージャーにご報告すると、現場を知り尽くすマネージャーは対応方法の引き出しをいくつもお持ちでした。アタリをつけて原因の潰し込みに工場を走り回ります。こうしてロットのたびに微調整が図られます。
従来はあまり顕在化されなかった目視検査の小さな気づき、AIはそれを具体的な数値で顕在化するツールになるのです。
2021年のコロナ禍、社会全体が沈鬱なムードでした。ヒトや企業の元気を取り戻すのに何か役に立てないか、そんな思いに突き上げられ、同社とのAIの取り組みを或るオンラインイベントで発表させて頂くと、なんと優勝してしまいました。(その優勝イベントに出るため東京に行くことになったとき、背中を押してくれた同社の社長には心から感謝しています。)
AIで検査コストを削減、それは守りのAIといえます。しかし品質を高めるのに活用できれば、攻めのAIになるのです。攻めの姿勢が現場にあるときAIの価値はさらに高まる、同社は企業が主体性を持ってAIプロジェクトを推進することの大切さを気付かせてくれました。
■<執筆者プロフィール>
合同会社SORAサクライ 代表櫻井 敏明(さくらい としあき)
30才半ばで勤めていた会社が倒産後、一念発起でIT業界に転職、若いIT技術者のカバン持ちから始めてIT開発25年、自らの経験から経営とは何かという視点にこだわるプログラマー兼経営コンサル。5年前からAI開発で企業を支援。AI導入、データ分析など支援企業多数。 |