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AIが顧客に心を届ける
合同会社SORAサクライ 代表櫻井 敏明(さくらい としあき) |
最後にご紹介するのは、お香や線香を扱う小売店でのAIの取り組みです。
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次回来店日を予測するAIの精度を表すグラフ |
同社の社長は経営相談に来られた後、毎月お越しになるようになりました。
組織、店舗、ECサイトなど社長の話題は様々で、何かの課題解決というより、私との会話から何かヒントを探そうとされているようで、打合せは1年以上続きました。
嗜好の多様化やテレワークの影響で、自宅で集中したい、リラックスしたいなど仏事以外のお香のニーズが急増する背景があり、押し寄せる様々な客層にどう訴求するか、同社の課題が徐々にわかってきました。
そこでマーケティング戦略を考えるため、過去5年分の売上データをお預かりし、データ分析から始めることになりました。
各店舗の特徴、顧客の来店周期、購入回数と再来店率の傾向など、議論しつつ課題の整理を進めました。
同社の几帳面なデータから、真摯に誠意をもって顧客と接しておられることも推察できました。
そして、AIを使えば 各顧客がいつ次に再来店しそうか、高い精度で割り出せることがわかってきたのです。
以前、社長は来店客に葉書を1通1通書いたことがあり、その時期には再来店が増えたそうです。大変な労力ゆえに継続を断念したそうですが、お香に興味を持ってくれた来店客にメッセージを送り、香りで生活を楽しんでほしい、社長の思いは変わりません。
そこで、AIが予測した顧客の次回の来店日が近づくと、「そろそろ購入の時期ですよ。」と、来店を促すメッセージをSNSで自動送信する仕組みを考え、現在システム開発中です。
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購入を促すSNS送信で、顧客のロイヤルティ向上へ |
一方、客層は様々です。若い女性、シニアの男性、高齢のご婦人、購入商品も違うなか、客層ごとに文面を変えられないか。そこで負担なく継続できるよう ChatGPTを活用して、客層ごとに適したメッセージを自動作成して送信する方法の検討を始めました。
しかしここで、「AIの作った文章が顧客の心に届くのか?」という問題が浮上しました。これには、負担が減らせるので、たたき台として修正して利用すればよいのではないか。など様々な意見が出ましたが、皆さんはどうお考えでしょうか?
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SNSと連携して客層ごとのメッセージを生成する例 |
私はこう考えるのです。同社の強みは「香り」、言葉で表せないモノを商材にしています。
「秋空に似た清々しい香りで集中したい」と顧客が求めれば、その香りを一緒に探索して調合する、そうして作ったお香は5000種類を優に超え、1つ1つが顧客のために心を込めて作り上げた香りの作品群、それが同社の財産です。
AIの文章は入り口であり、重要なことは企業としてもっと大事なゴールを先に見据え、強みの領域で顧客に心を届け、そこで信頼を獲得すること。そのような顧客を増やすため、堂々とAIを使っていくべき、とお伝えしました。
さて企業には、そもそも言語化しきれないところに戦う土俵がたくさんあります。
企業文化、職場風土、自社の将来像、顧客の評価、社員の心の機微や動機付け、等々、すべて大事なエネルギー源です。
言葉を生成して操るAIが世に誕生した今、企業に求められるのは、AIとも巧みに共生を図りつつ、自社ならではの戦いの場をその先に広げ、戦略を持って「AI超え」の経営を目指すこと。
そのような姿勢で経営を進める企業が増えてほしい、と私は願っています。
■<執筆者プロフィール>
合同会社SORAサクライ 代表櫻井 敏明(さくらい としあき)
30才半ばで勤めていた会社が倒産後、一念発起でIT業界に転職、若いIT技術者のカバン持ちから始めてIT開発25年、自らの経験から経営とは何かという視点にこだわるプログラマー兼経営コンサル。5年前からAI開発で企業を支援。AI導入、データ分析など支援企業多数。
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