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吉長 成恭さん |
「中小企業のためのコミュニティビジネス/ソーシャルビジネス(CB/SB)」(後編)
吉長 成恭(よしなが はるゆき)
広島国際大学 教授
中国地域CB/SB推進協議会 幹事長
ちゅうごくPFI/PPP推進会議 会長
前編では、CB/SBとはなにか、国内の現状と主な課題に加え経済産業省のCB/SB普及推進のための政策を紹介した。
後編では、先進的な事例を紹介して、中小企業の皆さんへCB/SBの取り組みをお勧めしたい。
1. 先進的な取り組み事例
(1)社会銀行(担保は人のネットワーク)
もっとも有名な事例は、バングラディシュのグラミン(農村の意)銀行と創設者ムハメド・ユヌス氏だ。2006年にはノーベル平和賞を受賞。先ごろNHK番組で何度か取り上げられているので、ご存知の方も多いはず。マイクロ・クレジットでの担保は不動産ではなく、主婦の共同体。利子は決して低いとは思わないが、村の女性たちの仲間意識が醸成され、返済未収金は極めて少ない。村人たちは貧困から解放され、子供たちは水汲みや薪集めなどの家事労働から解放され就学できる。
1999年にこのグラミン銀行のような社会銀行の一つであるトリオドス銀行(オランダ・ユトレヒト市郊外)とサウス・ショア・バンク(米国・シカゴ市)を訪問したことがある。取り組む社会的課題は異なるが、いずれもコミュニティビジネスやソーシャルビジネスに融資している。バブル崩壊後も預金高・貸付高ともに右肩上がりだ。
(2)福祉施設での取り組み例
仕事柄、福祉施設の取り組みの相談も多い。昨年度、農林水産省は厚生労働省と協働して障がい者の農業分野への就労政策が、この6月には「農」と「医」の連携政策が打ち出された。「医」には福祉施設が含まれている。食育分野もCB/SBにもってこいのテーマである。経済産業省との連携でいえば、農工商連携にもCB/SBのビジネスチャンスの山。
ⅰ)知的障がい者施設のコミュニティビジネス
1980年栃木県足利市に、知的障がい施設こころみ学園が有限会社ココ・ファームワイナリーを設立。会社理念は、「知的障がい者とともにおいしいワインを造る」である。学園が所有しているカルフォルニアの農園も園生が開墾し、安定した品質の高いワインを醸造することに着手した。ブドウの樹の里親制度などを導入し、保護者や地域の人々とのネットワーク化を進めた。著名なバイオリニスト古澤巌氏の支援をはじめ、2000年の沖縄サミット晩餐会の公式ワインに選ばれたのは、有名ソムリエ田崎真也氏の評価がある。(年商は約4~5億円)
ⅱ)パートナーシップによる高校生のビジネス
京都府立桂高等学校"草花クラブ"は学校・福祉施設・企業のパートナーシップを結び、ソーシャルビジネスを楽しんでいる。クラブは1985年に発足し、特にアジサイの栽培を得意として交配による新品種を複数世に送り出している。1993年に発表した「ニューバース桂」を皮切りに、「ピクシー桂の舞姫」「ちちんぷいぷい桂の地球(ほし)」など新品種を、次々に生み出している。1998年に、「ピクシー桂の舞」を初種苗登録し、2000年より、タキイ種苗から「ニューバース桂」を初の全国発売開始。事務手続きやマネジメントはすべて生徒の手で行う。自分たちで育てた苗の出張販売も行っているとのこと。生産は学校近くの障がい者施設に部分委託。生徒も障がい者と交流する機会を得て人間的成長も特記すべきものあり。ビジネスでも高校のクラブ活動とは思えないほどの収益を上げている。(純益は推定2~3百万円)
ビジネスによるお金の収益もさることながら、勉学にも成果が上がっている。例えば、2007年10月広島で開催された農業系インター・ハイとも呼ばれる第59回日本学校農業クラブ全国大会において、草花クラブ8名がプロジェクト発表(環境)で文部科学大臣賞を受賞。また、屋上緑化の研究で日本ストックホルム青少年水大賞を受賞した。
これは学校・福祉施設・企業のパートナーシップによるソーシャルビジネスの代表例ともいえる。
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2.中小企業におけるCB/SB取り組みのおすすめ
(1)資本金はゼロ、NPOをベースにビジネスモデルを
組織形態としては、(NPO)、特例子会社、LLP、LLCがおすすめである。
NPO(Non-Profit Organization)は1998年12月に施行された「特定非営利活動促進法」に基づく法人である。全国でおよそ3万6000団体が認証を受けている。NPOが会社法人と違うのは、設立時資本金が不要であることである。また、儲けてはならないわけではない。組織活動を維持管理するために、収益事業を行うことが認められているし、役員もスタッフも報酬を受け取ることができる。株式会社との相違は剰余金の分配方法である。株式会社は株主に配当として分配するが、NPOは役員や社員に分配せず、次年度の活動のために繰り越すことが一般的。もちろん雇用創出機会は同じ。
NPOの数を分野別にみると、もっとも多いのは「保健・医療・福祉」分野で約2万1千団体。社会教育の推進が約1万7千、まちづくり推進と子どもの健全育成が1万5千、学術・文化・芸術・スポーツ振興が1万2千、環境保全が1万強、以下国際協力、職業・能力開発・雇用機会拡大とつづく。NPOを支援する中間支援組織のNPOも1万6千団体が認証されている。(※1つの法人が複数の分野で活動を行う場合があるため、全体の法人数とは一致しない。)
(2)CB/SB市場は擬似市場の創造
CB/SBの市場はクアジ・マーケット(quasi-market擬似市場)を創造することが必要である。公共サービスの民営化や規制緩和によって社会サービスを擬似市場化する。つまり公共サービスという内部市場(internal market)におけるサービス主体を多次元化し、供給側の競争と利用者側の選択の自由を保障し、サービスの質の向上と効率を高める目的で形成された市場を擬似市場という。
政府・コミュニティ・市場(企業)と市民社会の関係を図示すると次のようになる。
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(3)CB/SBにおける社会的企業に必要な3つのション
ケータイ電話はマナーモードだが、これからのビジネスはソーシャルモードだ。
"社会"の文字を入れ替えると"会社"、連携させると"社会社"。仲間と社会と会社のハイブリッド組織をつくってCB/SB起業家になろう。新しいビジネスモデルが、社会の変革をもたらし、地域の社会的課題を解決する。
コツは3つのションで。それは、ミッション(社会的理念・使命)・パッション(情熱)・アクション(実行力)。
ミッションの最終ゴールは地域の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の醸成。パッションは連携で、マーケティング手法はソーシャル・マーケティング、ビジネス戦略実行のためにはバランスト・スコア・カードを活用。
CB/SBは地域経済のエンジン。未来は子供たちからの贈りもの。社会的企業家を目指すあなた!参加しませんか中国地域CB/SB推進協議会。
【おまけ:おすすめ参考資料】
経済産業省は、「ソーシャルビジネス55選」を平成21年2月に発刊。
問い合わせは、経済産業省 地域経済産業グループ 立地環境整備課
http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/sbcb/sb55sen.html
経済産業省中国経済産業局は「中国地域の中山間地域地域産業担い手たちの挑戦」
50人の地域ビジネスリーダー事例集を平成21年3月に発刊。
問い合わせは、経済産業省中国経済産業局 総務企画部 参事官(企画担当)
http://www.chugoku.meti.go.jp/topics/kikaku/h210528.html
中国地域CB/SB推進協議会
http://www.chugoku-cb-sb.net/
【著者紹介】
1952年広島市生まれ。
経営学大学院での研究は広告論をベースにCI論を、医学部では脳神経内科医師として脳神経情報伝達物質の微細構造を研究。約10年間、大手広告代理店で研究開発顧問としてMRI(磁気共鳴装置)による広告効果測定法を開発。
パリ大学および国立パリ高等商学研究院(エコール・ド・コマース)で広告論の招へい講師の後、1998年広島国際大学教授就任。英国の行財政改革手法PFI/PPP(民間資源/資金を活用した社会資本整備および官民パートナーシップ)と社会銀行(ソーシャル・バンク)の研究を行っている。