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(19)中小企業に求められる労務管理とは(第4回)

  
松田 里絵 さん
「中小企業に求められる労務管理とは」(第4回)」
-ワークライフバランスへの取り組み その2-
 ~働きやすい職場づくり~



松田 さとえ(まつだ さとえ)

松田社会保険労務士・中小企業診断士事務所代表
中小企業支援センター登録専門家


1 労災認定された過労死の動向
 過労死とは、過度な長時間勤務などの肉体的・精神的な大きな負荷によって、疾病や自殺などによって死亡することを言います。ちなみにKarosiは、2003年にはオックスフォード大辞典に収録されたほど、過労死は過度な労働を課す日本企業の特異な現象として、外国でも認知されているとのことです。
 過労死は長時間労働による脳疾患・心疾患発症というリスクに加え、最近では「名ばかり店長」として未払い残業代の請求、そして、過酷な労働環境からの精神疾患の発症などさまざまな問題と深く関係しています。


 平成21年度の過労死等事案の労災補償状況

 ①請求件数は767件で、前年度に比べ122件(13.7%)減少しています。
 ②支給決定件数は293件であり、前年度に比べ84件(22.3%)減少して
   います。
 ③業種別では請求件数、支給決定件数ともに「運輸業,郵便業」に分類
   される「道路貨物運送業」が最も多くなっています。
 ④職種別では請求件数、支給決定件数ともに「運輸・通信従事者」に分
   類される「自動車運転者」が最も多くなっています。
 ⑤年齢別の請求件数は50~59歳、支給決定件数は40~49歳が最も多
   くなっています。

※詳しくは、こちらをご覧ください。

 請求件数、支給決定件数は、減少しているということは、労働環境の改善が進んだということなのでしょうか。残念ながら、リーマンショック以降の景気悪化のため仕事量自体が減少した影響と考える方が妥当なようです。

 請求件数を見ていくと、40歳代の請求は30歳代の請求と比べて倍以上に急増しています。50歳代になると3倍以上です。

 恒常的に過重労働が行われている職場での業務が続き、加齢とともに同じ仕事量をこなし続けることに負担が発生するのでしょう。そして、働き盛りの40歳代、体力の衰えを感じ始める50歳代に、重篤な疾病となって労働者を襲ってくるのです。
 過重労働という名前のコップに疲労が一滴ずつたまっていき、ある日コップからあふれ出して過労死という最悪の結果を招く・・・・そんな様子がイメージされます。
 40歳代、50歳代の過重労働に気をつけるのはもちろん、今は若さで乗り切っているように見える30歳代の労働環境から整えていくことが重要なのです。

 下図のとおり、時間外労働時間が長くなると労働者の健康状態に多大な悪影響が出ることは言うまでもありません。

脳・心疾患で支給決定された事案(1ヵ月の平均時間外労働時間数別件数)
1ヵ月の平均時間外労働時間数 20年度 (うち死亡) 21年度 (うち死亡)
45時間未満
45時間以上60時間未満
60時間以上80時間未満 21 10 17 11
80時間以上100時間未満 131 62 119 44
100時間以上120時間未満 103 41 76 20
120時間以上140時間未満 49 22 30 15
140時間以上160時間未満 31 11 19
160時間以上 24 18
その他 16 13
合計 377 158 293 106

 長時間労働による労災が認定され、損害賠償請求の訴訟に発展したケースでは、鹿児島県のファミリーレストランチェーン店の店長が脳疾患を発症し、寝たきり状態になったことで鹿児島地裁は過労と症状の因果関係を認めました。判決では損害賠償、介護費用、未払残業手当など総額1億9700万円の支払い命令が出されました。最終的には、2億4000万円で和解に至ったということです。ちなみにこの店長、発症前半年間は月平均202時間もの時間外労働が行われていました。


2 労災認定された精神疾患
  精神障害と労災の関連が取りざたされるようになって久しく、すでに様々な判例なども出ていることはニュースなどでご存じのことと思います。

 厚生労働省の発表によれば、うつ病などの精神疾患により平成21年度に労災申請を行った人が過去最多の1,136人(前年度に比べ22.5%増加)、労災認定を受けた人が234人(前年度に比べ13.0%減少)とのことです。精神疾患が原因で労災認定を受けた人の理由は「仕事の量・質の変化」(80人)が最多でした。


 平成21年度の精神障害等事案の労災補償状況

 ①請求件数は1,136件で、前年度に比べ209件(22.5%)増加しました。
 ②支給決定件数は234件で、前年度に比べ35件(13.0%)減少しました。
 ③業種別の請求件数は「医療,福祉」に分類される「社会保険・社会福祉・
   介護事業」、支給決定件数は「建設業」に分類される「総合工事業」が
   最も多くなっています。
 ④職種別の請求件数は「事務従事者」に分類される「一般事務従事者」、
   支給決定件数は「販売従事者」に分類される「商品販売従事者」が最も
   多くなっています。
 ⑤年齢別では請求件数、支給決定件数ともに30~39歳が最も多くなって
   います。

 精神疾患が業務に起因して発生した場合も、最悪はうつ状態から自殺に至り、遺族からの損害賠償請求で訴訟に発展するという事例も後を絶ちません。

 平成12年の電通事件では、営業担当者がうつ病を発症し、入社1年6ヵ月後に自殺したケースで会社の使用者責任が問われました。結果、上司らが、労働者の長時間労働および健康状態の悪化を知りながら、労働時間軽減措置をとらなかったとして1億6,800万円 の損害賠償請求が認められました。


精神疾患については、厚生労働省のホームページで判断基準などが示されています。

 ストレスによるうつ状態を招く要因はさまざまです。
 例えば、長時間労働はもとより、仕事の失敗、仕事内容の変化、役割や地位の変化などです。
 さらに意外なことに、昇進・昇格、結婚、妊娠など一見すると喜ばしい出来事が引き金となってうつ状態に陥ることもあるのです。周囲が「幸せなはず」と決めつけてしまい、本人のストレスに気付きにくい。また本人も「喜ばなくてはならない。自分は幸せ者だ」と無理に思い込もうとして、かえって症状を悪化させることもあるようです。

※詳しくは、こちらをご覧ください。

 精神疾患は、労働者とのコミュニケーションをとり、日常の様子に目をいきわたらせることで早期発見が可能な場合も少なくありません。様子が変だと感じたら、家族と連絡を取り、職場と家庭の両面からサポートをしていくことも回復のためにはとても重要です。例えば、日常変化のチェックリストには下記(ファイザー製薬 家族のためのうつ病サポートブックより抜粋)のようなものがあります。

 ○毎朝新聞を読んでいたのに、新聞を読まなくなった。
 ○休みの日の趣味(ゴルフ)などをやらなくなった。
 ○怒りっぽくイライラしていることが多い。
 ○些細なことを気にするようになった。
 ○身だしなみに気を使わなくなった。
 ○身辺が散らかっていることが多くなった。
 ○眠れないようだ。(または寝過ぎて遅刻などをする。)
 ○体重が急激に減った。(または増えた。)



 変化に気付くには、日常を知っていることが大前提です。メンタル不全による休職者が発生し、半年休職後に復帰したとして、経済的損失は442万円という試算もあります。

 あなたの会社で、長時間労働が常態化しているとしたら・・・・明らかに人手不足なのでしょうか?それとも、業務効率が悪いことが原因なのでしょうか?「業務仕分け」をしてみることが必要なのかもしれません。そして、大切な従業員の小さな変化に気付くことができる、コミュニケーションの活発な組織づくりへと、今日から取り組んでいきましょう。


■筆者紹介

 松田社会保険労務士・中小企業診断士事務所 代表 
平成11年社会保険労務士として独立。平成16年中小企業診断士登録。平成19年県立広島大学大学院にて経営情報学修士(MBA)取得。中小規模事業所の「人財共育」をモットーとしている。組織と共に人が育つ人材育成・モチベーションアップのためのコミュニケーションススキル向上、組織づくりに、企業と共に取り組んでいる。平成16年から広島市中小企業支援センター登録専門家、女性起業家サポーターとして活躍している。

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