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技術情報の提供「赤外分光法・近赤外分光法について」 |
「赤外分光法」と「近赤外分光法」は、どちらも赤外線を使用する分析で、主に有機物の分析に用いられる分析です。両者は、使用している赤外線の波長が異なっており、その差から測定対象や得られる結果など、様々な違いがあります。今回は、これらの分析方法についてご紹介します。
●赤外分光法(IR)
IRは波数(=波長の逆数)が4000 cm~400 cm(波長:2500 nm~25000 nm)の中赤外線と呼ばれる赤外線を使用する分析方法です。炭素を含む原子間の結合は、この中赤外線を吸収するものが多くあり、多くの有機物は固有のスペクトルを持っています。そのため、IRは有機物の定性分析(試料にどのような成分が含まれているか調べる分析)に有効です。
以下に実際の分析事例を示します。
図①は成分が不明な試料の写真です。この試料は半透明で、大きさは5 mm程度です。ピンセットで触ると柔らかく、弾力があることが分かりました。そのため、この試料は樹脂(ゴムやプラスチックのような有機物のこと)等である可能性が高いと判断し、樹脂の種類を調査するためにIRで測定することにしました。
図②が図①をIRで測定して得られたIRスペクトルです。IRスペクトルは縦軸を透過率(%T=透過または反射した光エネルギー/入射した光エネルギー)、横軸を波数で表すのが一般的です。
樹脂の種類が異なると、IRスペクトルの形状も異なりますので、IRスペクトルを解析することで、どのような種類の樹脂か調べることが出来ます。
今回測定して得られたIRスペクトルを解析すると、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)という樹脂とスペクトルの形状が一致しました。
このように、IRは測定して得られたIRスペクトルから、試料がどのような物質であるかを推測する分析方法です。
●近赤外分光法(NIR)
NIRは波数が12500 cm~4000 cm(波長:800 nm~2500 nm)の、IRよりも波長が短い近赤外線を使用する分析方法です。中赤外線は炭素(C)を含んだ原子間の結合に吸収されることが多いですが、近赤外線は水素(H)を含む原子間結合に吸収されることが多いです。そのため、NIRはXH分光法(X=C、窒素(N)、酸素(O)など)と呼ばれることもあります。NIRはIRよりも定量性に優れるため、定量分析(試料に含まれる特定の成分の量を調べる分析)に活用できます。
例えば、『共重合体の組成分析』を行う際に役に立ちます。共重合体とは、二種類以上の樹脂を化学的に結合させて作られた樹脂のことで、例えば、EVAはエチレンと酢酸ビニル(VA)の二種類の樹脂を合成したものです。このEVAはVAの割合によって、粘弾性、透明性、耐摩耗性などの物性が大きく変化します。そのため、EVA中のVA含有量を知ることは、その特性を把握する上で重要です。
図①の試料はIRの結果からEVAであることが分かりました。そこで、次にこの試料のVA含有量を調査しました。
図③は試料のNIRスペクトルです。NIRスペクトルは縦軸を吸光度(ABS=-log[%T])、横軸を波長または波数で表すのが一般的です。このNIRスペクトルにある吸収ピークのうち5780 cm付近に確認された吸収ピーク(△)はエチレン、5160 cm付近に確認された吸収ピーク(◇)はVAに由来すると推測されます。
この△と◇の吸収ピークは、測定したEVAのVA含有量によって吸光度の比率が変化します。この比率に対して、あらかじめ検量線(量がわかっている標準物質と、それに対する測定データとの間の関係を示したグラフ)を作成しておくことで、試料の吸収ピークからVA含有量を求めることが出来ます。図④が実際に作成した検量線です。横軸にピーク強度比、縦軸にVA含有量をプロットすることで、EVAのNIRスペクトルからVA含有量を計算できます。
今回測定した試料は、検量線から計算した結果、VA含有量14%であることが分かりました。EVAの中で、VA含有量が11%前後のものはホットメルト接着剤(通称ホットボンド)として用いることが多いです。
以上のIRとNIRの測定結果及びその外観から、正体不明であった図①は、ホットメルト接着剤ではないかと予想しました。
IR及びNIRの測定に使用した赤外分光光度計については設備使用も可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
名称 赤外分光光度計
(日本分光株式会社)
本体部:FT/IR-6600FV
顕微鏡部:IRT-5200
■問合せ先 工業技術センター 材料技術室 TEL 082-242-4170(代表) E-mail:kougi@itc.city.hiroshima.jp
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