田村 善光(たむら よしみつ) 古田・田村特許事務所 副所長 弁理士、中小企業診断士、技術士(経営工学部門) Ⅰ.企業にとって知財経営の必要性とメリット 知的財産には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、ノウハウなどがあります。これらに関して、我が国は国際競争力強化を図るべく「知的財産推進計画」を打ち出し、知的財産の創造を促進させ知的財産を保護し知的財産の活用の促進を進めています。 この活動の主体は国ではなく企業です。では、企業の競争力向上のために重要な要素であると位置づけられている知財経営についての必要性とメリットを事例からみましょう。 事例1、2は知財経営を実践していなかった事例で、事例3、4は実践していた事例です。 事例1:開発がほぼ完了した時点で他社が特許権を取得していることがわかり、開発投 資がムダになり他社にライセンス料を支払いながら事業を進めることになりました。 事例2:工場内設備をノウハウとして出願しなかったところ、出入り業者が同様の設備を 製作・販売してしまいました。 事例3:後発参入しましたが、先行他社の事業・技術動向・保有特許などを徹底的に調査 し、問題は何か、回避できるかなどを検討し、独創的な製品を開発しました。 事例4:自社の販売網が弱い地方に限定した販売を他企業に地域限定ライセンスを供与 し、全国的に売上が向上しました。 以上の事例から、企業間競争が激化する中で、事業戦略・開発戦略とともに知財を重視した経営は必ず企業の競争力向上をもたらすメリットがあり、他に知財戦略の有無によるメリットとデメリットをまとめると図1にように表すことができます。
Ⅱ.知財経営のポイント(知財戦略推進体制・環境づくり) 知財経営を進めるには、知財戦略を推進する体制や環境づくりがポイントとなります。 ① 事業戦略、研究開発戦略及び知的財産戦略を三位一体とした仕組みの構築 図2に示すような三位一体が最も重要なポイントであり、事業戦略と研究開発戦略に 知財の情報の反映や知財の有効な活用を図る知財戦略を連携させます。この連携の やり方を、例えば社長が出席した、事業戦略や研究開発戦略の各段階における関係 部門合同会議の場で決定します。 ② 企業の全体最適の視点から知財を捉えて部門間調整できる人材の存在 財務や研究開発には全社的に統括する役員又は部長がいますが、同様に知財を全 社的に統括する役員又は部長を設置します。他の業務との兼務でも構いません。 ③ 管理者・社員の知財に対する意識高揚と報酬・表彰制度 管理者・社員に知財への意識を持つように知財教育を行います。また、アイデア創出 のインセンティブを高めるために報酬・表彰制度を設けます。 次回は、知財経営の実践(知財の活用)について紹介します。
【著者紹介】 古田・田村特許事務所で、特許・実用新案・商標・意匠・著作権などに関する各種相談、出願などの知財関係の業務を遂行するとともに、広島市中小企業支援センターの登録専門家です。 弁理士、中小企業診断士、技術士(経営工学部門)の資格をもち、技術経営(MOT)を大学院で学びました。広島にいる強みを活かして企業を訪問し発明者等との対話を重視し満足頂けるよう業務をすすめています。中小企業の知財活用の支援もします。 |
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