松田 さとえ(まつだ さとえ) 松田社会保険労務士・中小企業診断士事務所代表 中小企業支援センター登録専門家 第1回 中小企業のための、労働関係法令改正の注意点 平成22年4月に改正労働基準法施行に際し、時間外労働の割増賃金率が跳ね上がるということが報道されていましたが、蓋を開けてみれば、中小企業への直接的な影響は少なく、一安心の経営者の方も多いのではないでしょうか。 しかしながら、今回はあくまでも「時限的な猶予」に過ぎません。概ね3年後には対象企業規模の見直し等が行われる予定です。その他にも改正育児・介護休業法の施行、障害者雇用促進法の改正など、中小企業を取り巻く労働法令は大きく変化しています。 そこで今回は、中小企業に関わる労働法令の改正について説明したいと思います。 (1) 改正労働基準法のポイント ① 法定割増賃金率の引き上げ ② 「時間外労働の限度に関する基準」の見直し ③ 時間単位年休の付与 まず、経営者の方が戦々恐々とされていた、割増賃金率の引き上げについて。 これは、月60時間を超えた分の時間外労働に対して、従来の25%の倍の50%以上の割増率の賃金の支払いを義務付けるものです。ただし、中小企業については概ね3年間の猶予期間が設けられました。「ラッキー」・・・とは言っていられません。3年間のうちに、労働時間の見直しと改善に取り組まない限り、通常の賃金の1.5倍の割増賃金を支払うことになるのです。 次に限度基準の見直しについて。 原則として法定時間外労働を行わせるためには「36協定」の締結と届出が必要です。といって、協定さえ締結すれば何時間でも労働させることができるわけでもありません。一定の基準が定められています。この基準の改正が行われたということです。この改正に関しては、中小企業の猶予はありません。 最後に時間単位年休の付与について。 みなさんの会社の有給休暇の取得単位は、半日単位でしょうか。それとも1日単位でしょうか。 施行前は、原則として1日単位、経営者の裁量(ご厚意?)で半日単位の取得も可能だった有給休暇が「時間単位」で取得可能となりました。(ただし、労使協定の締結が前提条件。) 「参観日だから、2時間有給で」ということが可能になるのです。使い勝手が良いのか、管理が煩雑になるだけなのかは、各事業所の事情によっても判断の分かれるところです。 (2) 改正育児・介護休業法のポイント ① 短時間勤務制度の導入の義務化 (平成22年6月から。ただし、労働者数100人以下の中小企業は平成24年6月30日から) ② 男性の育児休業取得の推進 ③ 「一般事業主行動計画」の策定義務(平成23年4月から101人以上の労働数の事業所) 労働数101人以上の事業所については、取組みを要する事項がいくつかあります。 (3) 改正障害者雇用促進法のポイント 法定雇用率未達の企業の障害者雇用納付金制度の対象事業主規模の拡大 常用労働者数 201人以上 平成22年7月から 常用労働者数 101人以上 平成27年4月から 障害者法定雇用率(1.8%)未達の場合、一人不足ごとに月5万円の納付金を課せられます。 これらの法改正は、労働者のワークライフバランスに、ついに中小企業も真剣に取り組むべき時が来たということだと私は考えます。心と身体、仕事と家庭のバランスを維持すると共に、企業の業績も向上させていく考え方を、次回以降、テーマとしてご紹介していきたいと思います。 ■筆者紹介 松田社会保険労務士・中小企業診断士事務所 代表 平成11年社会保険労務士として独立。平成16年中小企業診断士登録。平成19年県立広島大学大学院にて経営情報学修士(MBA)取得。中小規模事業所の「人財共育」をモットーとしている。組織と共に人が育つ人材育成・モチベーションアップのためのコミュニケーションススキル向上、組織づくりに、企業と共に取り組んでいる。平成16年から広島市中小企業支援センター登録専門家、女性起業家サポーターとして活躍している。 |
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