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(30)中小製造業のものづくりの復活にむけて(第2回)


中小製造業のものづくりの復活に向けて(第2回)

-自動車産業から見た中小部品メーカーの現状と課題-


 中小企業の経営者が抱える経営課題について、
専門家の方にわかりやすく解説していただいています。
 なお、このセミナーの内容は、当財団のホームページに「Webセミナー」として公開していますので、いつでも見ることができます。

岸本 実さん
岸本 実さん
 
 -自動車産業から見た中小部品メーカーの現状と課題-


 岸本 実(きしもと みのる)

  経営革新研究所サンエス 代表
  中小企業診断協会広島県支部理事


 第1回目で、製造業を取り巻くグローバルな経営環境の変化を述べました。
 日本の自動車産業は、日本の製造業出荷額の17%を占め、広島地域には、マツダを核とする自動車産業集積があります。今回は、その自動車産業から見た、中小部品メーカーの現状と課題を考えます。


1.中小自動車部品メーカーの現状
 (1)経営環境変化の自動車産業への影響
 この20年間で、1991年:バブル崩壊、2008年:リーマンショック、2011年:東北大震災・タイ洪水などの大きな経営環境の変化があった。これらは、自動車の生産に大きく影響した(図-1)。
 製造業の経営環境は6重苦とも言われている。世界経済の混乱などから先の見えない円高の長期化があり、中小製造業の存立基盤をボディーブローのように痛めつけている。

図-1 マツダ車の国内生産台数の推移
図-1 マツダ車の国内生産台数の推移
(日本自動車工業会の統計を基に筆者作成)


 (2)取引構造の変化―系列取引の変容
図-2 系列取引の構図
図-2 系列取引の構図
 自動車各社は、安定したQCD(品質・コスト・納期)の部品調達のため、部品メーカーを系列化し、ティア1,2,3のピラミッド構造が形成されてきた。仕事を保証し、QCDを高めるための経営管理や技術面の指導を行う一方、系列外取引の制約をした(図-2)。
 しかし、グローバル化の進展や経営環境の急激な変化に対応するため、①世界最適調達(系列・地域に制約をしない)、②モジュール化(設計・調達・生産の原価低減のため発注単位を拡大)とそれに伴う取引先の集約化などを進め、系列取引は変容している。
 マツダでは、ティア1(従来の1次部品メーカー)の中からFSS(Full Service Supplier:開発・生産の可能な部品メーカー)を選定し、そのFSSを中心にモジュール化を推進している。それらの流の中で、ティア1の絞込みが行われ、今後も進展するものと考えられる。


 (3)新興国部品の品質向上
 上述の系列取引の変容で、米国のビステオン、仏国のバレオ、独国のボッシュなどの欧米の大手部品メーカーが日本の自動車部品産業に参入を果たしている。更に、韓国車は米国2011カーオブザイヤーの取得や輸出先の品質評価で上位を占めるなど、車両や部品の品質の向上が顕著である。国産車の原価低減のために、日産は、韓国製部品の調達を始めており、その他のメーカーにも広がる懸念がある。


 (4)部品メーカーの海外展開
 中国地域の企業の海外進出は、1985年のプラザ合意(円高の進展)以降、急速に拡大している(図-3)。部品メーカーの進出の契機は、マツダのアメリカ・タイ・中国などの海外工場の展開であり、現在メキシコ生産に伴う、部品メーカーの進出準備が進められている。
 西川ゴム、ヒロテック、石崎本店などの中堅企業は、他系列の要望を受けて、その進出先にも出ている。地場企業の海外進出比率は、ティア1を中心にその35%を超える比率である。
 海外進出企業の資本金別構成比は、1億円以下の企業が進出件数で12%を占めている(図-4)。

図-3 中国地域の海外進出の経緯
図-3 中国地域の海外進出の経緯
(東洋経済海外進出企業総覧2011を基に筆者作成)


図-4 資本金別構成比
図-4 資本金別構成比
(同上)


 (5)カーボンフリー化と次世代自動車の普及
 エネルギー源のカーボンフリー化に向けて、マツダのSkyactiveエンジン車、トヨタのハイブリッド車、日産の電気自動車などの次世代自動車が開発され、市場に導入されている。
 電気自動車は、エンジン・変速機などの機械部品が不要で、電池・モーター・制御部品などの電気部品が増加する。長期的にはその普及で地域の産業構造に大きな影響を与える。


2.中小自動車部品メーカーの課題
 上述の、円高の進展、世界経済の不透明感、新興国の製品品質の向上、カーボンフリー化などの外的な経営環境の変化に対応するため、自動車各社は海外展開や海外調達の拡大、取引構造の変化、次世代自動車の開発などに取り組んでいる。
 そのような厳しい経営環境に置かれている部品メーカーは、生き残りのために、自立した利益の源泉の確保・拡大の取り組みが求められている。
 中小自動車部品メーカーの課題は、①意識の変革、②海外や系列外を含む、取引の拡大、③自動車各社の要望に応える、或いはそれを先取りした技術の高度化や新技術開発である。
 これらの課題解決の困難さは、企業規模や立場によって大きく異なる。特に、ティア2,3は調達構造上、ティア1に比べて利益確保や経営資源の蓄積がしにくい立場にある。どのような戦略を構築し、限られた経営資源を活かして、如何にして生き残るかが課題である。


 次回(第3回)は「課題解決に向けた取り組み提案と事例」と題して、日本の中小製造業の抱える課題に対する取り組みの方策、先進事例を述べます。


■<講師プロフィール>
 岸本 実(きしもと みのる)
 昭和23年鳥取県生まれ。地元の自動車会社(商品開発担当)、外資系部品会社(品質育成担当)を経て、平成19年、経営コンサルタントとしての活動を開始する。
 以後、中小企業基盤整備機構の登録専門家、広島県商工会連合会の嘱託専門指導員、中国経済産業局支援機関サポートアドバイザーなどを担当。その間、中小製造業を中心に経営革新計画、新商品開発と販路開拓、事業承継計画、産学官連携などの支援を実施。
 グローバル環境下での日本のものづくりに危機感を持ち、「ものづくり支援」、「次世代自動車の中国地域の自動車関連産業への影響と対応」などの研究に取組んでいる。

 

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