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2026/10/07
おはようございます。 がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」のコーディネータ・向井です。
最近、身近なところで人工関節に触れる機会があり、人工関節の代表例である人工股関節について調べてみました。すると、材料や摺動技術など、さまざまな工学技術が医療の進歩に生かされていることが分かりました。今回は、その中で興味を持った技術について紹介します。
人工股関節置換術は、高齢化に伴って大きく増加しています。国内の年間手術件数は10年前と比べて約2倍となり、現在では年間約8万4千件に達しています。1) 人工関節の重要性が高まる中、さまざまな技術開発が進められてきました。
人工股関節の技術開発で特に興味深かったのが、実際に動く「摺動部」の改良です。従来の人工関節では、骨盤に固定した皿状の部分で摺動するポリエチレンが摩耗し、その摩耗粉が生体内で異物反応を引き起こし、炎症反応を介して、骨を吸収する細胞(破骨細胞)が活性化し、人工関節の「ゆるみ」につながることが課題となっていました。
そこで、細胞膜と似た構造を持ち、生体との親和性に優れた「MPCポリマー」をポリエチレンの表面にコーティングする技術が開発されました。これにより摩擦係数を従来の1/10に低減するとともに、摩耗を抑制することで、人工関節の長寿命化に寄与する技術となっています。さらに、低摩擦化により骨頭(ボール部分)の径を大きくすることが可能となり、脱臼の低減にもつながっています。2)
人工関節には、患者ごとの個人差や手術時間、リスク、費用など多面的な要求があり、医師だけでなく、生体材料学、トライボロジー、機構学、精密計測など、さまざまな専門分野の技術者が関わっています。
さらに工学的には、「材料・構造」と「人の動き」を組み合わせた評価も興味深いところです。歩行、階段の昇り降り、立ち上がりなどを「運動モード」として設定し、それぞれの条件における摩擦係数や摩耗量を評価することで、実際の使用環境に近い人工関節の設計につながります。摩擦状態を考える上では、荷重、摺動速度、潤滑剤の粘度等の影響を摩擦係数との関係として捉えるストライベック曲線も重要な手掛かりとなります。3)4) (図1参照)
このように、一つの医療課題を異なる分野の知識や技術を組み合わせて解決することが医工連携です。企業、大学、公設試等が持つ「シーズ」と、医療をはじめ社会の「ニーズ」を結び付け、新たな技術や製品、価値の創出につなげることが、コーディネータの役割だと考えています。
私自身もコーディネータの一人として、企業の技術を社会課題の解決につながるシーズとして見つけ出し、それを必要とするニーズにつなげていきたいと思います。「この技術を何かに活用できないだろうか」「この課題を解決できる技術を探している」といったシーズやニーズがございましたら、お気軽にお声がけください。
【参考文献】
1)「JOANR(日本整形外科学会レジストリー)年次報告2024年度版」
2)石原一彦、茂呂徹、京本政之:医工連携+産学連携による成果
「人工股関節の長寿命化に挑む!」、JSTnews、8巻7号、2011年
3)村上輝夫:関節軟骨組織構造・軟骨細胞と関節のトライボロジー特性、生体医工学、44巻4号、537-544、2006年
4)例えば長谷亜蘭:トライボロジーの基礎、精密工学会誌、81巻7号、643-647、2015年
