お電話でお問い合わせ
082-278-8032
メールでお問い合わせ
2025/01/15
おはようございます。がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」の創業支援担当・児玉です。
テレビドラマでは、経営が少し厳しくなってきた会社の社長が突然亡くなり、業界や経営の経験が全くない社長の娘がその後を継ぐという設定があります。そして古参社員の反発を受けながら、取引先や銀行からの信用も無い中で、経営者として成長し会社を改革していくという展開ですが、ここではこの事業承継に関する相続税について考えてみます。
話の設定として、当該会社は株式会社(非上場、株式は社長の一族で全て保有)、相続人は社長の配偶者、後継者(社長の長女)、長男の3人で、財産を相続したのはこの3人のみとします。相続財産については、社長の自宅とその敷地(配偶者、後継者が同居)及び当該会社の非上場株式があるとします。なお、社長からこの3人に対して、相続開始の日前7年以内の贈与や相続時精算課税に係る贈与はなかったものとします。(贈与と相続税の関係については、以前のブログで少し触れていますのでご参照ください。)
社長と会社は別人格なので、社長個人の資産・負債と、会社のそれとは区分されます。社長が所有していた自宅の土地・建物等は相続財産となりますが、会社所有の土地・建物・機械等については相続財産には含まれません。(その会社の株式が相続財産となります。)
自宅に関するローンなど社長の個人的な借入金は負の相続財産として引き継がれ、その額は相続財産の額から控除されます。会社の借入金は(相続の対象ではないので)相続財産の額から控除されません。仮に会社の借入金について社長が連帯保証人だったとしても、原則として相続財産の額から控除することはできません。(ただし連帯保証人としての義務は引き継ぐことになります。)また、自宅の建物・敷地に、会社の借入金に係る抵当権が設定されていても、その相続税評価額は下がりません。
社長から会社への貸付金(会社にとっては役員借入金)がある場合には、その貸付金は相続財産になります。
非上場株式については、「非上場株式等についての相続税の納税猶予・免除」の優遇措置(以前のブログでは事業用資産で説明していますが、非上場株式でも同じような取り扱いになります)があります。これを適用する場合には、期限に間に合うように諸手続きを直ちに進める必要があります。
会社の規模にもよりますが(注1)、株式の評価額を下げる方法として、社長に係る死亡退職金の給付があります。死亡退職金については相続財産の合計額に加算されますが、相続人に給付された場合、合計で1,500万円(500万円×3人(注2))まで控除できます。会社側からみると支払う退職金額だけ純資産が減少するので、非上場株式の評価額が下がります。(損金算入により法人税額も減少します。)
つまり、1,500万円の退職金を支給した場合には、退職金の受領による加算は1,500万円の控除により相殺され、一方で非上場株式の評価額は下がるため相続財産の合計額が減少し、相続税額の総額が減少します。退職金の額が控除額を超える場合、例えば2,000万円とすると、控除限度額超過分の500万円が相続財産の合計額に加算されますが、非上場株式の評価額は1,500万円の場合と比べて500万円ほど下がるとは限りません。(法人税については、損金算入により納付税額は減少します。)なお、死亡退職金の支給は相続税の納税資金の確保といった効果もあります。
注1:大会社など純資産価額方式で評価する部分が無い場合には、評価額は変わりません。
注2:法定相続人の数を掛けます。ここでは、配偶者、長女、長男の3人。
退職金については、社長の報酬額、在任年数、功績等からみて妥当な額であることが必要です。また、退職金の支給については適正な手続を踏み、証拠書類を残しておく必要があります。これについては税理士や税務署に相談・確認した方が安心です。また、ドラマの設定のように経営状況が不安定である場合には、退職金等の支給について銀行にも説明しておく必要があるかもしれません。
工場などの敷地が社長個人の所有である場合、その敷地は相続財産の額に加算されますが、会社に有償(相当の対価)で貸し付けていた場合(注3)には、小規模宅地等の特例が適用できます(注4)。自宅の敷地も、配偶者や同居していた子が相続する場合、小規模宅地等の特例は適用でき(注4)、相続税額の全体額を減少させることができます。
注3:貸し付けていた場合の評価額(敷地や会社の資産)の計算については、ここでは触れません。
注4:いずれの場合も必要な要件を満たしているものとします。
以上、ドラマの家族にとっては大きなお世話ですが妄想を膨らませてみました。上記以外に生命保険金、弔慰金、葬儀費用なども相続税額の計算に関係しますが、ここでは省略しています。また、細かな要件等についても説明を省略しています。
事業承継については、早めに準備に取り掛かることが、経営面からも税務面からも有利です。当センターでは税理士や中小企業診断士等の経営の専門家が皆様の相談に応じます。ぜひご利用ください。
〇広島市中小企業支援センターHP(経営支援アドバイザー派遣)
※上記の内容は、令和7年1月1日現在の法令等に基づき記載しています。
2024/10/09
おはようございます。がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」の創業支援担当・児玉です。
ちょっと前に見たドラマ(20年位前のドラマの再放送)で、写真館の主人A(菅井きん)が、その写真館(自宅付き)の土地・建物を娘Bに譲ろうとして騙される話がありました。Bに譲る際の贈与税を避けるため、次のスキームで引き継ごうとしたのですが、不動産会社Cに騙されたのです。
①Aから、Cにその土地・建物を低額で譲渡する
②譲渡した価格で、BがCから購入する (Cは②の取引を行うつもりはありませんでした)
※顧問税理士(愛川欽也)は、遺言書を作成してBに相続させるようにと勧めたのですが、Aはもう一人の息子が権利証を持ち出して写真館の土地・建物を勝手に売却するのが心配で、直ちにBに譲りたいとの意向でした。顧問税理士も上記の方法について思いついてはいたのですが、「筋が悪い」とつぶやいて黙っていました。
今であれば、このような方法でなくても「相続時精算課税」(以前のブログをご参照ください)の活用も考えられます。ドラマの初回放映時点では「相続時精算課税」は施行前だったのでしょうか。
AからBへ直接贈与した場合には贈与税が発生しますが、このスキームの狙いは、Cを経由して、売買取引としてBに土地・建物を移転させることで、贈与税を回避することなのでしょう。また、AからBへ相場より大幅に安く譲渡した場合には、身内なので低額譲渡(贈与税が発生)と判定される可能性が高いと考え、第三者であるCを間に入れたのでしょうか。Cが信頼できる相手かどうかという話もありますが、このスキーム自体税金対策としてどのようなものでしょうか。
まず、①、②の取引については、もし通常の取引としての実態が伴ってなく、贈与税回避の意図が見え見えだとすると、これらは実質的にAからBへの低額譲渡であるとみなされるかもしれません。①のAからC、②のCからBへの譲渡についても、それぞれ合理的な理由が説明できないと、低額譲渡と判定される可能性は否定できないと思います。
またAに関しては、譲渡所得(所得税が発生)についても考慮する必要があります。
低額譲渡と判定された場合、その取引は時価で行われたとみなされます。売主、買主が個人、法人の違いで、発生する税金の種類、取扱いは次のように変わってきますが、基本的には取引された価格でなく、時価に基づき税金の計算がされることになります。
ア 個人(売主)→個人(買主)の場合
売主:譲渡価格で譲渡所得を計算(この場合は時価での計算はしない)
買主:時価と購入価格の差額分について贈与を受けたとみなされる(贈与税の対象)
なお、取得価格は購入価格等とするが、購入価格が時価の1/2未満の場合には売主の取得価額を引き継ぐ場合あり。
イ 個人(売主)→法人(買主)の場合
売主:時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算
買主:時価で取得したものとする。時価と購入価格の差額は受贈益となる
(同族会社の場合、株式の評価額の上昇に伴い株主に贈与税が発生する場合あり)
ウ 法人(売主)→個人(買主)
売主:時価での譲渡とされ、時価と譲渡価格との差額は寄付金(相手が会社の従業員・役員の場合には給与・役員賞与)となり、損金算入は制限される
買主:時価で取得したものとされ、購入価格との差額は一時所得(又は給与所得)
エ 法人(売主)→法人(買主)
売主:時価での譲渡とされ、時価と譲渡価格との差額は寄付金(損金算入に制限あり)
買主:時価で取得したものとする。時価と購入価格の差額が益金となる
低額譲渡の判定は、譲渡価格が「時価より著しく低い価格」かどうかによりますが、「時価」及び「著しく低い価格」については、一律の基準はなく個々の事情に即して判定することになります。
※所得税に関しては、上記イの売主(個人)に関しては、政令により「時価より著しく低い価格」を時価の1/2未満と定められていますが、その他(ア、ウ、エ及びイの買主)については、法人税や贈与税が課せられる取引なので上記の政令は適用されません。また、ウの買主(所得税が適用)については「時価より著しく低い価格」ではなく、単に「時価より低い価格」とされています(所得税基本通達)。
低額譲渡に関する規定の趣旨は、不当に低い価格の取引による税金逃れを防止することです。通常の取引をされる場合には関係ないとは思いますが、オーナー社長が自分の財産を会社に低額で譲渡するケースは考えられます。このような場合には、思わないところで税金が発生しないよう、事前に専門家にご相談されることをお勧めします。
当センターでは税理士等の経営の各分野の専門家が皆様のご相談をお受けします。詳細・お申し込みは次のとおりです。
※上記の内容は、令和6年10月1日現在の法令等に基づき記載しています。
2024/06/12
おはようございます。がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」の創業支援担当・児玉です。
事業承継に関して活用できる相続税・贈与税の制度について、以前のブログ(「事業継承に係る贈与税・相続税の優遇措置について」、「相続税、贈与税の改正について」)でも取り上げたところですが、今回は小規模宅地等の特例について見てみます。
先代(被相続人)の所有していた事業用建物等(店舗、事務所、工場、賃貸用建物など)の敷地(注1)の承継については、小規模宅地等の特例が設けられており、この特例が適用できれば、相続税額計算の際、適用する敷地について評価額の80%(または50%)が減額され、納付すべき相続税額が減少することになります。
なお、この特例を適用した場合には、当該宅地等を引き継いだ者の相続税額だけでなく、他の相続人等についても相続税額が減少することが期待できます。(注2)
上記の他、被相続人等の自宅の敷地についても、一定の要件を満たせば特例の適用があります。事業に関係ない財産でも上記の財産と同様に、相続財産の総額に算入する価額を減額すると相続税額を減らすことが期待でき、事業承継に有利に働きます。
ここでは細かな適用要件については説明を省いています。また、その敷地を承継したのは誰か、敷地上の建物等の所有者は誰か、敷地の貸借が無償か有償か、その敷地で行っている事業の開始時期など、個別の事情によっては特例が適用できない、あるいは減額率が異なる場合があります。
適用できる敷地の面積には限度があり、適用可能な敷地が複数ある場合には、どの敷地に適用するかという話も出てきます。相続財産の中に、この特例が適用できそうな敷地がある場合には、「特例の適用が可能か否か」、「特例を適用するための条件」、「どの敷地について適用させるか」などについて、税理士や税務署に相談・確認されるのがよいと思います。
なお、この特例は相続(又は遺贈)により取得した敷地に関する特例です。生前贈与加算や相続時精算課税(注3)の規定により、贈与によって取得した敷地の価額が相続税額の計算に算入される場合もありますが、その際にはこの特例は適用されません。贈与による事業承継をお考えの場合には、このことにも留意する必要があります。
注3 生前贈与加算や相続時精算課税については、以前のブログ「相続税、贈与税の改正について」をご参照ください。
当センターでは税理士など各分野の専門家が、皆様の個別の事情に応じてご相談にお答えします。ご利用をお待ちしています。
広島市中小企業支援センターHP(窓口相談)
広島市中小企業支援センターHP(経営支援アドバイザー派遣)
広島市中小企業支援センターHP(トップページ)
※以上の内容は令和6年4月1日現在の法令に基づき記載しています。
2023/05/31
おはようございます。がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」の創業支援担当・児玉です。
オーナー社長が自分の所有する建物や土地を会社の事業で使用し、会社からは対価を受け取らないこともあるかもしれませんが、その場合の法人税、所得税及び将来の相続税等について考えてみました。
1 無償譲渡の場合
保有する建物や土地を事業で使用するため会社へ無償で譲渡したとします。その場合には、無償であってもその建物や土地は時価で譲渡されたものとみなされます。これにより法人税については、その時価相当額が受増益として益金に算入され(再建時などの特殊な場合を除きます)、所得税については、その時価から建物や土地の取得価格・譲渡費用を差し引いた額が譲渡所得となります。なお法人税について、建物の減価償却費を損金に算入することができます。
土地や建物の無償譲渡を受けた会社について、その贈与によりその会社の株式の評価額が高くなることが考えられますが、社長(無償譲渡者)以外の株主がいる場合には、その株主は、その高くなった分についてその社長から間接的に贈与を受けたことになり、贈与税が課せられる場合もあります。
(将来発生する社長に係る)相続税については、その建物や土地は既に社長個人の財産ではないので、相続税の課税対象にはなりません。ただし、社長が保有する当該会社の株式については相続税の課税対象となります。なお一定の要件を満たす場合、非上場株式についての相続税の納税猶予及び免除の規定の適用があります。(非上場株式についての相続税の納税猶予及び免除については当ブログ「事業継承に係る贈与税・相続税の優遇措置について」をご参照ください。)
2 無償貸与の場合
建物や土地の所有権を社長個人に残したまま会社に貸付け、会社からは使用料を受け取らない場合(無償貸与)ですが、無償で使用する会社について益金(及び損金)、無償で貸与した社長の賃貸収入はいずれも発生しないこととなり、この貸与に関して、法人税、所得税は発生しません。(ここでは借地権に係る権利金の認定課税については発生しないものとします。)
ただし、(将来の)相続税については、資産が社長個人に残っているので、当然ながらその建物や土地について相続税の課税対象となります。また、それらの資産は無償で貸与されているため、有償貸与の場合と違ってその評価額は下がらず(賃貸借に係る資産の評価減や小規模宅地等の特例の適用はありません)、相続税額は大きくなることが考えられます。
3 現物出資の場合
「無償」ではありませんが、金銭での支払いがないという点では現物出資という方法もあります。建物や土地を会社に渡し、それらの財産の時価相当額で同社の株式を取得する方法です。(増資に関する諸手続き、資本金が増加することによる影響についてはここでは考えないこととします。)
この取引については、損益は発生せず法人税には影響しませんが(決算の際には減価償却費が損金算入されます)、所得税については取得した株式の金額から建物や土地の取得価格・譲渡費用を差し引いた額が、社長の譲渡所得に算入されます。相続税については1の場合と同様に株式が課税対象となります。
なお、無償譲渡や無償貸与は消費税の課税対象とはなりませんが、現物出資は有償取引なので、状況によっては消費税が課税される場合もあります。
法人成りの際にも、個人から会社への事業用資産の引継等があり、上記のような話も出てくるかもしれません。また、上記の内容は「無償(現物出資は時価相当額)」の場合に限定したもので、事業用資産の引継については時価での譲渡や相場での賃貸が一般的だとは思います。それ以外の方法では税務的に分かりにくい場合もありますので、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
当センターでは税理士など各分野の専門家が、皆様の個別の事情に応じてご相談にお答えします。ご利用をお待ちしています。
※以上の内容は、令和5年4月1日現在の法令に基づき記載しています。