お電話でお問い合わせ
082-278-8032
メールでお問い合わせ
2023/07/05
おはようございます。 がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」のコーディネータ・向井です。
最近の衝撃的な話題に、潜水艇「タイタン」の爆縮事故があります。高圧に耐えていた空間が、その限界を超えると一瞬にして押しつぶされる爆縮が起こり、それによって衝撃波が伝播していく現象です。流体機械では、これに近いキャビテーション(以下CTと略記)という現象があります。
CTのメカニズムを以下に示します。流体ではエネルギー保存則が成立し、局所的に流速が早いところでは運動エネルギーが大きく、それによって圧力エネルギーが低下します。この圧力が飽和蒸気圧より低くなると蒸気の泡が発生します。その泡が崩壊する際に大きな衝撃圧を引き起こし(局所的に数百MPa、自動車タイヤの空気圧の約1,000倍)、近くの金属面の壊食(破壊・摩耗)につながることがあります。1999年にHⅡロケットの燃料ポンプの羽根車(インペラー)周りでCTが発生し羽根が破損しました。また、2001年にニュートリノの研究施設で知られるスーパカミオカンデにおいて、一つの光電子増倍管の破損による衝撃圧が発生し、それが伝播して光電子増倍管の全数破損事故に繋がった例が知られています。
このように、流体を扱う技術者にとっては、CTは厄介な現象であり、絶対に避けなければなりません。一方、材料屋から見ると、CTで発生する衝撃圧を巧妙に活用できないかという考えが起こり、ウォータージェットピーニング(WJP)といった技術にまで発展しました。このWJPは、水中においてノズルから噴射された水噴流中のCTが、金属表面で崩壊する際に生じる衝撃圧によって表面を圧密化(表面に圧縮応力)するものです。
例えば、原子力の圧力容器は高級なステンレス鋼が使われていますが、材料/環境/応力(引張)の3要素が重なったところでの応力腐食割れ(SCC)が知られています。そこで、このWJPを使って表面を処理し、応力(引張)条件を排除して圧縮応力を付与することによりSCCを防止する技術が生まれました。また、疲労強度も大きく改善し、ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点からも優れた技術といえます。(図1~4参照)
この5月の国会でGX電源法が成立しました。その中に原発の運転期間を60年超えに延長することも含まれます。今回取り上げたような優れた技術を駆使しながら信頼性をさらに上げ、欧米とはエネルギー事情が異なる日本に合ったカーボンニュートラルに発展して欲しいと思っています。