おはようございます。がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」の創業支援担当・児玉です。
オーナー社長が自分の所有する建物や土地を会社の事業で使用し、会社からは対価を受け取らないこともあるかもしれませんが、その場合の法人税、所得税及び将来の相続税等について考えてみました。
1 無償譲渡の場合
保有する建物や土地を事業で使用するため会社へ無償で譲渡したとします。その場合には、無償であってもその建物や土地は時価で譲渡されたものとみなされます。これにより法人税については、その時価相当額が受増益として益金に算入され(再建時などの特殊な場合を除きます)、所得税については、その時価から建物や土地の取得価格・譲渡費用を差し引いた額が譲渡所得となります。なお法人税について、建物の減価償却費を損金に算入することができます。
土地や建物の無償譲渡を受けた会社について、その贈与によりその会社の株式の評価額が高くなることが考えられますが、社長(無償譲渡者)以外の株主がいる場合には、その株主は、その高くなった分についてその社長から間接的に贈与を受けたことになり、贈与税が課せられる場合もあります。
(将来発生する社長に係る)相続税については、その建物や土地は既に社長個人の財産ではないので、相続税の課税対象にはなりません。ただし、社長が保有する当該会社の株式については相続税の課税対象となります。なお一定の要件を満たす場合、非上場株式についての相続税の納税猶予及び免除の規定の適用があります。(非上場株式についての相続税の納税猶予及び免除については当ブログ「事業継承に係る贈与税・相続税の優遇措置について」をご参照ください。)
2 無償貸与の場合
建物や土地の所有権を社長個人に残したまま会社に貸付け、会社からは使用料を受け取らない場合(無償貸与)ですが、無償で使用する会社について益金(及び損金)、無償で貸与した社長の賃貸収入はいずれも発生しないこととなり、この貸与に関して、法人税、所得税は発生しません。(ここでは借地権に係る権利金の認定課税については発生しないものとします。)
ただし、(将来の)相続税については、資産が社長個人に残っているので、当然ながらその建物や土地について相続税の課税対象となります。また、それらの資産は無償で貸与されているため、有償貸与の場合と違ってその評価額は下がらず(賃貸借に係る資産の評価減や小規模宅地等の特例の適用はありません)、相続税額は大きくなることが考えられます。
3 現物出資の場合
「無償」ではありませんが、金銭での支払いがないという点では現物出資という方法もあります。建物や土地を会社に渡し、それらの財産の時価相当額で同社の株式を取得する方法です。(増資に関する諸手続き、資本金が増加することによる影響についてはここでは考えないこととします。)
この取引については、損益は発生せず法人税には影響しませんが(決算の際には減価償却費が損金算入されます)、所得税については取得した株式の金額から建物や土地の取得価格・譲渡費用を差し引いた額が、社長の譲渡所得に算入されます。相続税については1の場合と同様に株式が課税対象となります。
なお、無償譲渡や無償貸与は消費税の課税対象とはなりませんが、現物出資は有償取引なので、状況によっては消費税が課税される場合もあります。
法人成りの際にも、個人から会社への事業用資産の引継等があり、上記のような話も出てくるかもしれません。また、上記の内容は「無償(現物出資は時価相当額)」の場合に限定したもので、事業用資産の引継については時価での譲渡や相場での賃貸が一般的だとは思います。それ以外の方法では税務的に分かりにくい場合もありますので、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
当センターでは税理士など各分野の専門家が、皆様の個別の事情に応じてご相談にお答えします。ご利用をお待ちしています。
※以上の内容は、令和5年4月1日現在の法令に基づき記載しています。
おはようございます。がんばる中小企業と創業者を全力で支援する「広島市中小企業支援センター」の創業支援担当・児玉です。
インボイス制度(令和5年10月からスタート)の導入について、最近、新聞や雑誌などで取り上げる機会が多くなってきました。これらの記事の多くに、免税事業者もインボイス制度の導入により影響を受ける旨が書かれていますが、その導入が免税事業者に対しどのように影響を与え、どのような免税事業者が大きな影響を受けるのか考えてみました。
※インボイス制度については、課税事業者及び免税事業者向けに各税務署またはオンラインで説明会が実施されています。(市内の税務署については12月の説明会は終了していますが、1月以降については下記のHPでご確認ください。)
国税庁HP(インボイス制度説明会の案内)
国税庁HP(インボイス制度特設サイト)
〇販売・納品先(以下、取引先とします)の立場から見ると
影響について考えるにあたり、取引先(課税事業者・原則課税の場合)の立場から考えてみると、取引先が納付する消費税額は大まかに言って次の算式で計算します。
売上に係る消費税額-仕入に係る消費税額=納税額
まず、売上に係る消費税(販売先から"預かった"消費税)を計算し、次に仕入額のうち消費税の部分(仕入先に"預けた"消費税)を計算します。そして、"預かった"消費税から"預けた"消費税を差し引いた金額を納付することになります。 "預けた"消費税額(算式の太字の部分)を差し引くことを「仕入税額控除」と言いますが、インボイス制度導入以後は、一定の事項が記載された適格請求書(インボイス)がない仕入れについては、原則として「仕入税額控除」ができなくなります。(ただし、当面の間は80%を控除できる経過措置があります。) この適格請求書が発行できるのは課税事業者(登録が必要)のみで、免税事業者からの仕入については「仕入税額控除」ができず、取引先から見ると価格以外の要素で差がない場合には、同じ価格では免税事業者から仕入れようとは思わなくなります。
〇免税事業者に影響がない場合、ある場合
インボイス制度の導入後は、取引先にとって免税事業者からの仕入れについては「仕入税額控除」ができないため(経過措置はありますが)、免税事業者から見ると課税事業者(原則課税)に対する売上にマイナスの影響がでることが予想されます。 ただし、取引先が仕入税額控除をしない場合、例えば課税事業者でないとき(消費者、免税事業者など)や課税事業者であっても簡易課税(課税売上高のみで税額を計算する方法)を選択しているときなど(※)は、上記のような影響はあまりないと考えられます。しかし、取引先がこれ以外の場合には「仕入税額控除」ができないため、免税事業者はその取引先に対する売上について影響を受ける可能性があります。
※他に取引先の非課税売上(居住用賃貸マンションの家賃等)に対応する仕入である場合などがあります。
〇対応についての検討
インボイス制度への対応は個々の事情により異なりますが、売上全体のうち課税事業者に対するものが大きい場合、対応について検討してみる必要があります。 取引先が自社の商品(製品)やサービスについて、他の業者では代替できない場合、顧客が価格以外の部分で価値を認めている場合には、免税事業者のままでも取引が継続できるかもしれません。取引先から値引き交渉があった場合には、免税事業者からの仕入れでも、(当面の間)仕入税額の80%が控除できることを知っていれば交渉のネタに使えます。免税事業者でも適格請求書発行事業者の登録をすることができますが、その場合は課税事業者となり、消費税の申告・納付の義務が生じることになります。 なお、インボイス制度への対応のため、小規模事業者に対して激変緩和措置が検討されているとの報道もあり(12月16日に税制改正大綱が公表されその概要が示されました)、対応を検討されるのであればその内容についても知っておく必要があります。 インボイス制度導入についての免税事業者の対応は、個々の事情により変わってきます。
当センターでは税務やその他の分野の専門家が、皆様の個別の事情に応じてご相談にお答えします。ご利用をお待ちしています。
当センターHP(窓口相談のご案内)